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zoom RSS 長編童話  楽園の王者

<<   作成日時 : 2010/09/29 22:57   >>

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   21  ヤブ蚊とホクロの少年の家

 みつおは宿題長をすませて、表の庭先で、自分とゆみ子の本立てを作っているおじいさんのの手仕事を見ていました。
肌色の木の板を、長いのやら四角目やらと、ノコギリで四枚五枚と、ゴシゴシ簡単に切っていきます。
みつおが自分にも出来そうに思えてきて、
「ぼくも切りたい」
と言うと、おじいさんはみつおの顔を見て手を休め、木と木の間にはさまったノコギリを手放しました。
そして、足と手とでこう押さえて、自分の足まで切ってしまわんよぅに、危ないでこうしてと教えてくれました。
みつおは楽しく嬉しい気持ちで、ノコギリをにぎって引きました。
 あれ?・・・・・・とまた引きました。
あれ、ノコギリが全然動きません。
今度は思い切り引いて押すと、ちょこっとだけ動きました。
「やっばり、おじいちゃんに代わるわ」
と、ノコギリを手放しました。
「もぅちょっと大っきなったら、いくらでも上手に出来るよぅになるに」
と、おじいさんは、ゴシゴシゴシゴシ気持ち良く板を切って、カンナで板のふちに丸みをつけていきます。
見ていると、すいすい進むので、簡単そぅとしか思えないのでした。
 遊び友達の小学生、じろうとつとむとたかやと、ようじとひろしが来ました。
しばらくは皆して、板を組み合わせたり、釘(くぎ)を金槌(かなづち)で、カンカンと打つおじいさんの手仕事を見ていました。
二年生のたかやが、木の切れはしを持って、
「おじさん、これで箱作れるなぁ」
と言うと、おじいさんはにこやかな顔で、
「ふん、できるな。鉛筆立ても出来るし、ワンタをつけたら車にも電車にもなるわな」
皆も切れはしを持って組み合わせてみて、楽しくおしゃべりしていましたが、そのうち、
「おじいちゃん、遊びに行ってくるわ」
と仲良く出かけていきました。
昼ごろには帰ってきましたが、食事がすむと、
「じろちゃんの兄さんも海へ行くて゛」
と、海水バンツとタオルと、お母さんにたのんで、トマトを七個洗ってもらって袋に入れて、元気よく出かけて行きました。
広くて大きな青い海は、村はずれの川沿いの草の堤防を歩いて三十分で行けるのでした。

  眠り続けたカブトが、爽やかに目を覚ましました。
フタのすき間から、かいま見える長屋の天井は明るく、身体中に力がみなぎって、祭典と皆の顔を思い浮かべ、意欲満々で少年の訪れを待ちました。
けれど、日差しが弱くなっても現れません。
スポーツの祭典は今夜、気が気ではなくなって、落ち着かなくなりました。
 家の外の流し場で、大おじいさんがにわとりの餌(えさ)にする青菜を洗っていました。
帰宅したみつおが、大おじいさんの横に立ちました。
みつおは、祖父母や曽祖父母のそばにいて、その仕事を見ているのが好きでした。
「させて」と言うと、「こぅするんやに」と、丁寧に教えてくれるのでした。
大おじいさんは洗った青菜を、にわとり用のまな板の上に置いて、にわとり用の包丁で、ざくざくと刻んで、ブリキのバケツに入れました。
それから魚のアラ、頭や骨を包丁の刃を上にしてたたいて、また元に戻した刃で微塵に刻みながら、
「カルシュームが足らんと、卵の殻が薄なって、卵が割れやすなるでの」
と、細かくなったアラをバケツに入れました。
そして、刻んで煮出した後の煮干のだしガラを入れ、とぅもろこしの砕(くだ)いた粉を入れ、米ぬか少々入れ、水少しを入れて手でよくかきまぜて餌を作りあげました。
屋敷の奥のにわとり小屋の前に二人がバケツを下げて行くと、小屋の中から、コッコッコ、コッコッコと赤いとさかのにわとりが二羽、かけ足で網ごしのバケツの元に来ました。
すわっていたにわとりも立ち上がって急いでかけてきて、三羽五、六羽と集まってきました。
大おじいさんは網の外の細長い餌入れに、端から順に青菜を盛っていきます。
始めに盛った端の餌に、どっと集まった何羽かが、ぶつかり合いながらも、すぐに盛られていく入れ物の前に十羽はきちんと一列になり、仕切った細い竹の窓から首を出して、喜んで餌をついばみました。
青い鉢の水入れに、少なくなった水をたっぶり注ぎ足すと、餌をついばんでいた一羽がかけてきて水を飲み、口ばしを上に向けてバクバクしました。
「みーさん、今晩は花火があるで、打ち水をしたら、早めに風呂に入ろかのぅ」
「ふん、皆で花火見やんならん」
さっきの流し場に戻って、二人はガチャコン、ガチャコンとボンブで水を汲みました。
大おじいさんはバケツと柄杓(ひしゃく)で、みつおはブリキのじょうろで、家のまわりのカンカンに乾(かわ)いた土に水をまきました。
二人は共同作業を気持ちよくおえると、大おばあさんが薪(たきぎ)をくべて沸かした、湯気のこもる良い湯かげんの風呂につかりました。

 あれから、ヤブ蚊のサスヨとカヤノは、ようじの家の庭を出て、四方八方の家々の庭や道、空き地などで遊んでいる蚊という蚊に聞いて飛んだのでした。
「口元にホクロのある少年、このあたりで見かけやんへんだやろか」
昨晩は家族でお月見して縁台に涼んでいる家やら、庭先で大人と子供が線香花火をしている家やら、白黒テレビの前に並んで大人と子供が笑っている家やら、子供が大人に絵本を読んでもらっている家やらと。
そして、今日も二匹して、はりきってあちこちと少しも疲れることなく飛びまわったのでした。
洗濯物がきれいに干してある家やら、花がたくさん咲いて猫がのんびり歩いている家やら、子供がむしろの上でままごとしている家やら、小屋で牛が草を食べている家やら、池に魚が泳いでいる家やら、犬が小屋の前でボーと座っている家やらと。
ようやく、やぎ小屋のある家の庭の草むらで、ブン子というスマートな蚊が言いました。
「たしか、ほの道行って、曲がった三軒目の家の、色の浅ぐろーい、坊主頭のかわいらしい少年ですやろ。私、一緒に行きますで」
ヤギが、メェェェェと、のどかに鳴きました。
サスヨとカヤノは喜んで、ブン子と一緒に広い道をみつおの家へと飛びました。
「なんかこぅ、いつもより楽しいな」
とサスヨが言うと、カヤノが言いました。
「私もや。心があったかく燃えとる感じ」
ブン子が言いました。
「知らん虫のために尽くすのって、心に愛があるからや。あなたら優しいええ蚊や」
「あなたも優しいええ蚊や」
人通りのない広い道を、三匹はにこにこと楽しく右に曲がりました。
女の人が自転車でスーと来て、スーと行ってしまいました。
「この家やに。ここから入りましょか」
と、ブン子が明るい声で言いました。
まきの木の生け垣を飛び越えると、家の裏口の戸が開いていました。
三匹はその入り口を入って熱気あふれる土間へ飛び、風呂釜の前を飛び、開けられた入り口から次の土間、台所へ飛んで行きました。
台所のボンブと流し台の後ろにあるかまどの前の畳に座ったおばあさんが、煮炊きの火加減を見て薪(たきぎ)をくべ、湯気の立つ鍋に、お母さんが野菜を入れました。
蚊三匹は、土間の台所からそのまま続いて食堂になっている畳の上を飛び、隣の居間へ飛びその奥の部屋へ飛び、戸や窓が開いている部屋から部屋へ家の中を見て飛びました。
けれど、カブト虫の姿は、どこにも見つかりませんでした。
「戸が閉まった部屋もあるで、ホクロの少年を待ってましょか」
と、サスヨが言いました。
三匹は食堂に戻り、目立たないよぅ、畳の上の天井や柱に散らばって止まりました。
そこへ、大おばあさんが入って来ました。
大おばあさんは戸棚の一番下の引き出しをあけて四角い箱をだし、フタを開けて緑色のうず巻を一本取って、ブタの姿の入れ物の中に取りつけて、マッチの火をつけました。
すぐに香取線香の臭いと煙が、モワー、モワーと柱や天井にかかってきました。
「あかん。ここにおったら、息苦しいて死んでしまうわ」
三匹は煙の無い隣の居間に非難しました。
安心したのもつかの間、さっきの臭いと煙がして、香取線香を入れた蚊ヤリ器を持った大おばあさんが居間に来ました。
蚊三匹は、ギョッとあわてて、ガラス戸の開いている所から庭へ飛び出しました。
「もう、困るなあ。日が暮れるやない」
「逃げやなしかたあらへん。死んだら約束守れやんで」
「まぁ、ちょっと、ここで待っとろに」
蚊三匹は、暗くなるまでにカブト虫に会わなあかんと違うやろかと、落ち着かなくなって、そのあたりをブンブン飛んだリ、軒下の柱に止まったりしました。
 みつおが風呂からあがり、居間にきて、さっばりした身体にゆかたを着て、大おばあさんに帯を結んでもらいました。
「あ、本立て、ええのができたなあ。本入れてくるわ」
隅に置いてあった本立てを持って、みつおは机のある部屋へ行きました。


   つづく     


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