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zoom RSS 長編童話  楽園の王者

<<   作成日時 : 2010/08/15 22:04   >>

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   14 野蛮な王者と輝く星

 カーコが畑を目指して飛び立ったあと、カブヒコも林の中を飛びまわりました。

 ぼくらは強いぞ力持ちー
  ひとたび角(つの)をふるならばー
  どーんな虫も退散するのさー
  ぼくらは甲虫一万のー
  一万種類のチャンピオンー

カブヒコの、はりのある声が、飛びゆく緑の木立に響いていきます。
のどの渇きをおぼえて、近くに液の出る木を探しました。
二匹のクワガタ虫と、一匹のカブト虫のいる、コナラの幹に止まりました。
歌声を聞いていたクワガタ虫は、
「チ、おもろない」
互いに目を合わせました。
美味しく液を飲みながら、カブヒコは身の幸せを感じていました。
 生まれる子は、どんな虫になるやろ。
可愛い幼虫の子を思い、成長して逞(たくま)しい子を思いました。
 強くて、良い子に育って欲しい。
けれども、と、弱い虫が強い虫に投げ飛ばされる光景が浮かびました。
 もし、弱い子やったら・・・・・。
争いのときを思って、ふいに心が揺れました。
 かわいそうな思いはさせたくない。不幸になってはならんのや。
子の行く末を案じてしまいました。
 子が成虫になったとき、自分はこの世にいない。どんなに護ってやりたくても、手も足も出せやんのや。
と、胸がつかえてしまいました。
 ほんなら、どうしたらええんや。
闇の中で気をもみ、じっと、なげいていましたが、心配は突如、素晴らしい名案と切なる願いになりました。
「ほうとも ! まわりの虫が兄弟のよぅに思て、子達を導いてやってくれますよぅに。悪しき者は去れ !! 」
カブヒコは天に向かってつぶやくと、同時に、がく然となりました。
 ぼ、僕は、僕は投げ飛ばしてきた。
あのとき、この時の虫の姿、その光景が目の中によみがえると、後悔の念が激しくわきだして息苦しくなってしまいました。
樹液を飲もうとして投げ飛ばされた悲しい心の内や、地面に落ちたときの身体の痛みは、どんなに苦しいものやったか、そんなこんなを今更のよぅに思いやると、たまらなくなって涙があふれだしました。
 ごめん、ごめんの。
あのとき、このときの一匹一匹の虫を思っては、どんなに辛かったやろかと侘びました。
しばらく詫びて反省しているうちに、いくらか心も慰められ、涙が塩辛いと知り、今しがたまで考えもしなかった両親を思いました。
 会ったことのない父と母、父母の一生は幸福やったやろか。まわりの虫達は親切で良い虫やったやろか。親とも子達とも、同じ夏を生きられないぼくら。一番大切な親と子に何もしてあげられやんのや・・・・。
そんな思いをめぐらしたこの時、愛しい父母と子達の姿が、投げ飛ばした悲しい虫達と重なり一つになりました。
 ぼくらには、今この夏を生きてる虫達、まわりの虫達こそ、血を分けたよぅな深い縁(えにし)があるんや。
カブヒコは大きく息をはきました。
 大事な一生に、とり返しのつかん罪を残してしもた。必死に追い求めた僕の幸せは、自分とまわりの虫をキズつけ、不幸に追いやっただけなんか。
所詮、まわりをないがしろにして、自分一匹の幸福を求めるのは、品性のいやしい目先にとらわれた愚かな生き方と思い知ったのです。
カブヒコは、林の中のカーコと暮らしているクヌギに帰りました。

 カーコの笑顔を見たら、きっと心が明るく晴れると思ったのに、カーコは帰っていませんでした。
 ほぅや、こんなときは大空を見るんや。
たまらなくみじめで、醜い自分が嫌になり、新しい自分に会いたくて、林を飛びぬけて広い田畑の上にでました。
地平まで続く田畑の上の空は、無限に青く、広く、星々が無数に白い光を放ち連なっています。
その大空をながめながら飛んでいると、重い心はしだいに澄んで開放されていきました。
稲田の緑の中に、はんの木がチョコン、チョコンと離れては立っています。
 あの、太いはんの木で休もぅ。
夏草の繁る細い畦道(あぜみち)に立つはんの木には、三匹のカブト虫が休んでいました。
一匹は、身体がいびつにへこんでいます。
 もしや・・・・・。
カブヒコは近づいて静かに声をかけました。
「カブキチ」
空を見ていた無心な目が、こちらを向きました。
「−−−あ、ああ、お久しぶりです」
一瞬、カブキチは別の虫かと思ったのです。
気弱で、何か悲しげな、優しさを含んだカブヒコに顔。
「あのとき、ごめんの。追い払って悪かった」
申し訳なさそうに詫びました。
カブキチは首を横にふりました。
「こちらこそ、ごめんの。何もされてないのに、飛び去って心配かけたの。悪いのはぼくのほぅや」
カブキチも詫びました。
「フフフ」
「ハハハ」
心と心が解け合って、互いがテレました。
「あの、光ってる星たち」
静かなカブキチの声に、カブヒコは星々をながめました。
「あの星たち、ぼくらの仲間の姿や。あそこに光ってるのが、カブヒコの星や」
カブヒコは、大きな光りを放ってまたたいている星を見つめました。
「ぼく、長いこと考えてた。皆、輝いている。ぼくは、何で自分を輝かせたらええのかって」
カブヒコは、話すカブキチを見ました。
悲しみも、淋しさも無い顔、むしろ喜びに輝いて見えました。
「けど、やっとわかったのや。身体はこんなでも心は自由やって。心で輝けばええのやって」
カブキチは笑顔をたたえて語ります。
「ぼく、心の優しさの、チャンピオン目指すな」
「ほれ、素敵なことやの」
にっこり美しい目で、カブヒコも言いました。
「僕も心を磨かんとな。腕力だけで生きると、ただの野蛮虫になってしまうからな。甲虫一万の、本当のチャンピオンとは言えないんや」
語るカブヒコの身体に、生き生きと力がみなぎっていました。
カブキチは目を輝かせてうなずきました。
 今夜はカブキチに会えて良かった。前に進むのみ。
カブヒコは、まわりの虫に罪をつくった以上の何倍も幸福をつくり、護っていける真のチャンピオンに生まれ変わろうと、夜空の澄んだ大きな光に誓ったのでした。


    つづく    



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