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zoom RSS 長編童話  楽園の王者

<<   作成日時 : 2010/08/07 21:01   >>

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    12   母の愛と願い、夫婦の愛

 初めて会ったとき、花のよぅに美しかったカーコ、この頃、思いつめたよぅな顔をするカーコ、夫の自分を悲しげな目で見るカーコ、どぅしてなんや。
カブヒコの頭は混乱していました。
「健康でたくましいカブヒコ、けれど貴方の強さは、我が家の幸せのためだけなの」
カブヒコにそれを言ったとき、「当たり前やないか」の一言で、片づけられてしまったのでした。
 私に優しいカブヒコ、幸せなはずなのに、どうして心から楽しくなれないの。
カーコは、ときどき笑顔をつくるのがやっとでした。
 カブキチと一緒に飛んだ空、田の中のはんの木から見た空には、お星が天いっばいに広がって、それは美しかった。
林の繁る木の葉の間から、きらりと光る星を見ると、身体の弱いカブキチの行方を思い、カーコは胸が痛くなるのです。

 カーコとカブヒコの住む、太いクヌギのまわりを、カブトはブーン、ブーンと飛びまわると幹に止まりました。
身ごもっておなかが大きく、いく分ふっくらしているけれど、液を飲んでいるのは、たしかにカーコです。
「カーコ」と呼びました。
呼び声のする方を見たカーコは、思いがけないカブトの姿に心から喜び、二、三歩足を進めました。
すると、すかさずカブヒコが間に入ってカブトをにらみつけ、角(つの)を下げて闘(たたか)う姿勢になりました。
 いかついグッと押してくる強そうなカブヒコの目、ここで目をそらしたらやられる。
カブトはまばたきもせずに見つめました。
太い足、堂々とした姿、凛々しくて澄んだ目、カブヒコはカブトをにらみつけていましたが、その目の中に、姿に、自分にかなわないものがある、闘(たたか)っても勝てない、といぅものを感じとりました。
「何や。これ以上近づくと許(ゆる)さんぞ !」
カブヒコは目をそらし、角(つの)を引くと言いました。

懐かしいカブト、立派になったカブト、よくわからないけれどなぜか、カブヒコにない強さが感じられた。
カブキチが元気でいると聞いて、カーコは、胸の中につまっていたものが、スーと消えて、なくなったよぅな気がしました。
カブヒコがカブトと争わなかったことも嬉しく、カブトが帰ってからもカーコは、楽しそぅにカブヒコに語りかけました。
カブヒコも混乱していた頭が落ち着いて、自分らしさを取り戻しました。
もぅ、そろそろ、行かなくてはならない頃と悟ったカーコは、やわらかい目をして、
「行ってまいります」
と微笑みました。
「気をつけて行けの」
カブヒコが優しい声で言いました。

 カーコは、星月夜の明かりの下で、林の近くの畑に堆肥(たいひ)を見つけると、そこへもぐりこみました。
強い前足で土を掘り進み、深い所へもぐりこみました。
おしりで小さな穴を掘ると卵を産みました。
やわらかくて白く、つやつやしています。
 私の可愛い子供達、食べるのに困らないよぅに、食べ物で争うことのないよぅに、皆が無事で、元気に育ちますよぅに。
カーコは祈りをこめて、少し離れた所へ穴を掘っては、卵を産んでいきました。
いくつ産んだときでしょう。
あの畑で育ったカブキチやカブトは、友達ではなくて、兄弟だったと知りました。
わが身をとおして、会ったことのない父母の心も、わかったよぅな気がしました。
そして、林にいる、どの仲間を産んだ親達も、わが子の幸せを心から祈ったに違いないことも。
 子達が幸せになりますよぅに。
祈りをこめて、力をふりしぼって穴を掘り、6個目の卵を産み終えると、カーコは満ち足りた、ほっとした安心の中で、ぐったりしました。
 私は母になり、カブヒコは父になったのや。ぁぁ、カブヒコ、子達が丈夫に生まれてくるよぅに、元気で子を産めるよぅにと、たっぶり樹液を与えてくれたカブヒコ、愛しい子達の未来の姿は、また、私達の姿でもあったのに、私はカブヒコに、何の幸せを贈ったやろか、カブヒコを幸せにする虫は、この世に私しかいないのに。
そぅ思うと、誰よりもカブヒコが懐かしく、会いたくなりました。
体力もしだいに元に戻り、土をかき分けて地上へ顔を出した時でした。
一点の汚れもない美しい天と地が、カーコの目の前と心に広がったのです。
 この地上は何か大きな慈悲に包まれて、この地も、あの林も輝く宝そのもの、いいえ、この天と地の何もかもが宝の集まりなのやわ。
星空を仰ぐ小さなカーコの胸に、天にも届く熱い思いが満ちていました。


      つづく     



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