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zoom RSS 長編童話  楽園の王者  

<<   作成日時 : 2010/07/31 00:40   >>

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  9 大切な命、砕け散る幸福

 カブヤとカブキは、木の下で仰向けになっている虫の元へ下りてきたのでした。
「こんな姿になって」
ほんの少し前、力ずくの取っ組み合いをした元気なあの虫が、とカブヤは、血に染まった傷だらけ羽ボロボロの姿を見て胸が痛み、再び呆然となったのでした。
「二度と動かんのやの。話もできやんし」
せめて今、この虫にしてあげられる幸福は、ていねいに葬(ほうむ)って祈りをささげることでした。

 二匹は前足で土を掘り始めました。
あの元気な虫の生命は宙にとけて消えたのか、見えない姿になって天空の彼方へ行ってしもたのか、再び会うことはできやんのか。
取り組んだときの虫の力、身体の温もりを思い出して、カブヤはとても不思議な、とても悲しい気持ちになっていました。
「虫を生き返らせたろか」
悲しんでそぅ言うカブヤを見て、カブキは、ほんなことできる虫はおらへん。と心の中でつぶやき、頭を横にふって、カブヤと自分の心に明るさを取り戻したくて静かに言いました。
「また生まれてくる。いつか、どこかで会えるで」
いつかどこかで会えても、ほのときわかるのかな。顔も姿も今と同じとはかぎらんのやろ。
ほれに、いつかなんて嫌なんや。
今すぐ元気な顔を見て、優しくしたい気持ちでいっばいなのです。
 カブキは虫をこんな目にあわせた五匹の虫達の罪を思いました。
独占した木は死んで持って行けやんけど、自分がした行いは、良いことも悪いことも全部持っていかんならん。悪いことして苦しまん虫はおらへんやろ。5匹はまだ生きとるのやで、どこかで会ったら話し合いたい。心を改(あらた)めて、良いことをして、生き直してもらいたいと考えたのでした。
力を入れて土をかく二匹の顔から、玉の汗がボタボタ落ちて土にしみていきます。
 ふと、命の不思議を思ってカブヤが言いました。
「死んでも、また生まれてきとるのなら、どぅして前に生きとったこと覚えとらんのやろ」
前に、ほのこと考えてみたけど、よぅわからんだと、カブキは思いましたが、今、ビンとひらめいたことがあって言いました。
「新しい一生を、新しい心で生きるため、かな。・・・何もかも二度と同じ条件の一生は無いと思うで、今を大切に幸福にしあって楽しく生きなさいて言うておいでるんやないの。生まれるたびのこと、何でも覚えとったら、世の中こんがらがって、争ってばかりおらんならんよぅになるで、せめてもの天の思いやり、お慈悲なんかな」
「自分から死んだらどぅなるやろか?」
「死んだらあかん!死ぬまで生きとらなあかん!」
カブキの焦った言い方に、カブヤは目を丸め、足を休め焦って言いました。
「あの、ぼくは死なへん。大丈夫やけどな、安心して」
ああ、とカブキは胸をなでおろして再び土をかきながら言いました。
「小さい悪いことでもしたら後で苦しまんならんのに、たとえ自分の生命でも、偉大な天地の分身なんやで、自分で殺したら、他殺と同じ天地に背(そむ)く恐い行いになるで、地獄の一番重たい所に堕ちて、どんなにか苦しまんならん。今度は生まれたいところへは生まれてこれやんよぅになるし、死んでから後悔しても戻ってはこれやんしな」
ああ、恐(こわ)、悪いことしたらあかんな、と思いながらカブヤは土を掘り進めました。
 カブキが真面目な顔で言いました。
「自分から死のぅと思うときはな、誰一匹自分のことを思ってくれる虫はおらへんて、この広い天地世界で一匹ぼっちの悲しい気持ちになっとるときやに、心をふさいで暗い気持ちにひたっとると、暗い心の闇の奥で地獄の扉が開いて、魔物や鬼が、おいで、おいでって、ささやいて引っばるんや。魔物や鬼は暗闇の心が大好きやでな。けど、蛍の光ほどでも、心の中で、死んだら悲しむ虫がおるて思いやれたら、魔物も鬼もバッと消えて地獄の扉が閉まるんや。魔物や鬼にとって、愛の光や希望の光は天敵みたいなものやでな」
「心に信じられる光があったら、不幸にならんですむのやな」
カブヤは、そぅ言ってから思ったのでした。
ほぅいえば、誰かを信じ、自分の未来を信じて愛に満ちとるとき、希望にあふれて凄く幸福な気持ちになる。信じられる光が小さくなって消えたとき、喜びも楽しさも、希望も勇気も智慧も、すべての元気力が消えて、死んどる感じになるのやと。おととい、隣の林で一緒に液を飲んだ虫、ぼく、死んどる、と言って笑ってた。笑ってたから気がつかんだけど、本当は未来が見えやんで淋しくて泣いとったんや。あのとき、ぼくを信じて打ち明けておくれたんや。今どこにおいでるやろか。会いたいと。
 カブキは土をかきながら、コガネグモの話を思い出して言いました。
「この天地世界に生きとる生命は、知らんところで働いて助け守りあって生きとるのやで、自分だけ独占するのは悪なんや。感謝して分かち合うのが天地の心に叶うんやで。・・・ほれに、誰でも一匹ぼっちで生きとるよぅに思うけど、恩恵を受け合って皆つながっとって、本当は大勢の生命と一緒に、自分なりに生きとるんや。」
と足を休め、これくらいでええのと一息つきました。
 二匹は汗だくのまま虫の遺体にふれて、ハッ、となりました。
古キズがいくつもあったのです。
虫はたびたび投げられて、気持ちが荒れてたんや、淋しかったやろなと、生前の虫の気持ちを思いつつ、掘った穴に亡骸を入れて土をかぶせていきました。
そして、土の上にクヌギの葉一枚を立てて、今度生まれるときは長く生きて、平安で幸福な一生になりますようにと祈ったのでした。
二匹は、しばらく亡き虫の墓を、ホッと温かい気持ちでながめ、お互いを良い虫やと思いながら、クヌギの幹に登りました。
 真夜中を過ぎた頃、カブトが爽やかに飛んで来て幹に止まりました。
カブヤとカブキは、元気なカブトの姿をみると急いで駆け寄り、コガネグモから聞いたとおりに事件の話をしました。
カブトはみるみる青くなり、涙目になりました。
心の輝き、幸福は砕け散り、周りの皆も平安で幸福でなければ、自分も本当の幸福にはなれないことを思い知ったのでした。
「虫はあそこへ葬りましたんやに」
カブトは、虫の荒々しい姿、おいしそうに液を飲んだ顔を目に浮かべ、言葉を失くしたまま、二匹と一緒に幹を下りました。
そして、根際(ねぎわ)の土の上に立つ一枚の葉を三匹で静かに囲んだのです。
カブトは、自分に感謝してこんな目にあった虫に、あのとき飛び立って申しわけないことやったと、涙してお詫びをしたのでした。
 カブトの長い祈りが終わると、カブヤが自分の気持ちを伝えました。
「ぼく、あのとき虫を投げとったら、今頃後悔して、やりきれやんだと思いますんや。さきほどは、ありがとうございました」
カブキも親愛のこもった顔で言いました。
「あのとき、僕も譲(ゆず)ろうと思たけど、僕は実行できやんだです。飛び立たれたとき、僕とカブヤが友虫になりたくて追いかけたけど、よぅ追いつかんだです」
二匹の気持ちを嬉しく思って、カブトはいくぶん明るさを取り戻しました。
「ぼく、カブトって言います。毎日どこかへ飛ぶのやけど、ここへは必ず帰ってきます」
三匹はあらためて自己紹介をしました。
カブヤとカブキがコガネグモから聞いた話や、自分が感じたことを語り合いました。
「天に光っとる星の数くらい、生きとるうちに、良いこといっばいしたい」
三匹はうなずきあい、今夜のこと、虫を忘れないと思ったのでした。

    
   つづく   




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