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zoom RSS  長編童話  楽園の王者 

<<   作成日時 : 2010/06/23 00:46   >>

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  3 厳しい現実、 自分に挑戦

 東の空が、ほんのり白く明けてきました。
 まだ暗い空の下、クヌギの青葉の上を、オレンジ色の赤シジミが二匹、ゆっくり飛んでいます。
カブトは太いクヌギの幹に止まりました。
伸びた枝の下の幹の裂け目を見上げると、そこには早くも四匹のカブト虫と二匹のクワガタ虫が集まって輪になり液を飲んでいました。
カブト虫は皆つやつやしてたくましく、大小二本の頭の角(つの)がそれは立派です。
クワガタ虫たちも皆つやつやしてたくましく、、ガッシリ伸びたキバがそれは立派です。
カブトは足取りも軽く虫達の輪に歩み寄り、一匹入れるくらい空いているクワガタ虫と、カブト虫の間にそっと入りました。
 裂け目の液は真夜中に見たときよりも、たっぶりしっとりにじんで、皆、静かにしておいしそうに飲んでいます。
カブトも喜んで液に顔を近づけました。
スッと、その時、カブトの左の肩が隣のカブト虫の肩にふれてしまいました。
「 ごめんなさい 」
カブトは急いで顔を上げて詫びました。
けれど、もうギロリとにらまれていて、あっという間に長い角で、ボーンと一気に投げ飛ばされてしまったのでした。
カブトの目に天と地がひっくり返って、バサッと草の葉を大きくゆらして、ズンと地面に転がり落ちました。
落ちたとき、内臓も目玉も吹っ飛んでしまうかと思うほど、ビンと身に響く痛みを受けましたが、幸いにも地面には古い落ち葉が重なっていましたので、どうにかケカ゛は無くてすみました。
けれど、輝いていた喜びと楽しさはペチャンコになって消え、胸に押し寄せてふくらんだのは情けない淋しさでした。誰の優しさもありません。
カブトはすぐに起き上がって、乱れた羽を直しました。
 クヨクヨしとるひまはあらへん、前へ進むしかないんや。
自分にそう言って、しゃんと気を立て直して、ゆっくりした足取りで幹に登りました。
幹のキズグチから、わずかにじんでいる液を見つけて飲みました。
飲みながら、もう決して飛ばされないように、足と腰の力を強くしょうと決めました。
 クヌギの長く伸びた枝の葉に、コイチャコガネ虫が飛んできて止まり、その葉をバリバリ食べて穴を広げていきます。
広がっていく葉の穴をながめているうちに、いつしか林の中が明るくなって、清々しい木立の中から緑色のイトトンボが、スー、フラ、スー、とかよわげに飛んできて、目の前をゆっくりのんびり飛んで、木立の緑に見えなくなりました。
その奥の深い木立の草の上を、オオムラサキが滑(すべ)るように大股(おおまた)に、フワー、フワー、と飛んでいきました。
ふと地面に生(は)える夏草に目をやると、そこにはカマキリがじっとしているのでした。
 まだ寝とるんやろか。
どの虫も、一匹一匹が単独で元気に自分らしく、楽しく生きているようでした。
 カブトは液から離れると、ゴツゴツカサカサの固い幹を踏みしめて歩き、登っては下りてを、幾度も繰り返したのでした。
 日差しがだんだん強くなって大地を焼き照らし、林の中も熱気で蒸し暑くなっています。
幹や枝で休んでいたカブト虫やクワガタ虫は、根元の落ち葉の下やら幹のすき間にもぐっていきました。
カブトは汗をタラタラ流して歩いていましたが、今日はこれでええと一息つきました。
びっしょりの汗は、かえって清々しく爽やかで心地良いのでした。
落ち葉の下の土は、ひんやりして気持ちがよく、もぐるとすぐに眠ってしまいました。


 次の夜、月に明るい青々した緑の稲田の上を飛んで、カブトは前よりも少し大きい隣の林に着いたのでした。
夜が更けると、いろんな種類の虫達は眠りについて、林の中を遊び飛びまわっているのは、クワガタ虫とカブト虫だけになっていました。
虫達は、より美味しくてたっぶり液のにじむ木と、結婚相手を探し求めて木から木へ、夏の夜を一晩中元気に活動するのでした。
 ある柏の木では、一匹のカブト虫が物凄い力で前に下げた角をブンブン振り回して、一匹のカブト虫を後ろへズンズン追いつめていました。
カブトが飛んできて幹に止まったときには、いきなり前へ突っ込んだと思うや、あっといぅ間の早わざで長い角を相手の胸の下にさしこみ、ボーンと後方へはねとばしたのです。
カブトは自分が飛ばされたようなショックを受けて幹をかけおり、虫の元へ急ぎました。
虫は地面であお向けになり、なんとか身体を元に戻そうと必死にもがいています。
胸からは血が少しにじみでて、それは角の先が強くあたったからでした。
「よいしょ」
カブトは二本の前足で助け起こしました。
「ありがとう・・・。あ、いたたたた」
二匹は結婚したい娘の虫を巡って戦ったのでした。
虫は顔をゆるませ、恥かしそうに笑いました。
「あのド迫力には参ったわ」
「すごかったな。必死のド迫力には誰もかなわんに」
そぅ言って、虫とカブトが幹を見上げると、娘の虫と、ド迫力の虫が心配そうにこちらを見下ろしていました。
その顔を見て虫とカブトの気持ちがやわらぎました。
「負けは、やっばり嬉しない」
と、虫は小さく笑い、おとなしい声ですっばりと言いました。
「こうなったら二匹の幸せを祈る。ぼくもええ嫁さん見つけるで」
「男らして、カッコウええです」
虫の清々しい心意気に感動して、カブトはにっこりうなずいたのでした。
 それからあちこちに飛んで、コナラの幹に止まりました。
そこでは、カブト虫とクワガタ虫が後ろ足で立ち上がり、がっちり取り組んでいたのでした。
が、クワガタ虫がサッと身をかわし、大キバでカブト虫の胴体をはさむと頭上へ持ち上げ、木の下へ放り投げたのです。
こんなとき、たいていは力の強いカブト虫が勝つのでしたが、こんなこともたまにはあるのでした。
二匹はどちらも、この木を独占して嫁さん虫を迎えたかったのです。
地面で虫は青い顔をグイッとしかめて痛そうにしています。
カブトは虫の元へ幹をかけおりました。
「大丈夫ですか。痛いやろな」
キバではさまれた羽の部分が傷んで、背中と腹から血が流れています。
古い落ち葉をかき集めて虫を休ませました。
「羽、破れとらへんやろか?」
虫が心配そうにしました。
正直に伝えたほうが良いのか、何ともないでと安心させてあげた方が良いのか、とカブトは迷いました。
「ほんとうのこと、言うてほしいです」
虫はカブトの目をじっと見つめて、不安そうです。
「キバの先が当たったとこな、キズついとるで飛ぶとき、一度に遠くまで飛ばんほうがええと思います」
虫は、目から涙をあふれさせました。
「ああ、もう健康な羽やない。元の美しい羽やない。あんな木、独占しょうて思わんだら良かった。いつまた誰に奪われるかわからん木より、健康な羽のほうがずっと大事やった」
と、わんわん泣きました。
「泣きたいときは泣いてもええけどな、泣かんでもええ。傷が治るまでのがまんや。治ったら空も飛べる。傷しとっても歩けるし、動ける。目も鼻も頭も健康ですやろ」
虫は自分を思ってくれる温かい声に涙をこぼして、耳をかたむけました。
「あのな、飛んでばかりおったら、できやんことありますやろ。飛ばんだらできる楽しいこといっばいあるし、治るまで、今までしたことのないことしたらええ。ほしたら新しい世界が広がって、発見があって才能がみつかるかもわからんしな。好きなこと、あるやろ?」
虫は涙の目を見開いて、明るい目をしました。
「・・・わかったで、考えるで」
虫としばらく一緒に話をしました。
激しい争いをする虫も、一匹一匹は良い虫なのでした。
林には、はりきっている虫や、傷ついた虫や、幸せそうなカップルや、飛び疲れてトロンとした虫や、いろいろな気持ちの虫達がいました。
 暗い夜が明けて木立が明るくなりました。
あれから林の中を飛んで、がっしり太いクヌギの幹に休み、裂け目の裏側へまわると幹を踏みしめて歩き始めたのでした。
足の爪(つめ)を幹に引っかけて登っては下りて、今日も汗びっしょりになって一歩一歩と登り登っているときでした。
どうしたら一気に強い力が出せるのかがわかったのでした。
六本の足の爪を幹にグイッと引っかけて踏(ふ)ん張ると、とても強い力がでるのです。
もう多少の力では、押されても決してずり落ちたり飛ばされたりしないと思いました。
自分の中の力、努力で新しい世界を見た喜び、この一つの小さな体験は、カブトの中で宝の光となって、心と未来を豊かに明るく照らしました。
 けど、強くて乱暴な虫に出会ったら、また飛ばされるやろ。
 もっと、ビクともせん虫になるために、踏ん張るけいこもしよう、と決めました。
小さいことも毎日積み重ねれば、いつか自分を根っこから転換する大きな力となって、見たこともない世界が開けると信じたからでした。
すると、ファイトがもりもり湧きました。
 ほうや。長いこと休まんと、早う飛ぶけいこもしょう。ほしたら、もっと力がつく。
未来の雄々しい姿を思い描いてみて、カブトはすぐに踏ん張りを始めました。
 ふわー、ふわーと優雅な羽の青色が美しいオオムラサキが飛んできて、裏側の裂け目の液に止まりました。
すると、左右に広げた羽をギロッ、と見たカブト虫とクワガタ虫が長い角と大キバを、ほとんど同時に思い切りふりました。
素早くも飛び上がったオオムラサキは、
「やっばりなー」
と、一言もらし、楽しさも自尊心も大いに損なって、泣きそうな顔をして滑るように草むらの奥へ飛んでいきました。
 愛も情けも無い虫のまわりには、いつも悲しみが作られるのでした。  

      つづく


       
     

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