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zoom RSS 長編童話  楽園の王者

<<   作成日時 : 2010/06/15 21:56   >>

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  2  成虫の喜び、 輝く未来

 のどかで平和な里の夜空には、数知れない星が銀色にまたたいて、また数知れない星の群れが白くけむって南から北へ河のよぅに亘って見えるのでした。
 さつま芋の緑の葉が生い繁る畑の隅の、こんもりと盛り上がった土の中から、カブト虫のカブトが長い角を出し、顔を出しました。
カブトは地にはい上がると四方八方をながめて、夜空をながめました。
 なんと広い空、大きな空。
広大なその天空には星がたくさんきらめいて、こんもり繁る暗い林の上に三日月が明るく浮かんでいます。
 美しく明るい月、数ある星の王者のよぅや。
カブトは月にみとれながら二、三歩前へ歩き、清々しい緑の空気を胸いっばいに吸い込みました。

 あ、ほうやった。
脱皮したときから気になっていた背中に力を入れてみました。
すると、バタッ、バタッ、身体が少し浮き上がりました。
アレレとびっくりして飛びはね、力をこめて羽ばたくと空へ高く高く舞い上がったのです。
びっくり仰天、目の前の天地四方八方が輝き、喜びの未来が大きく開けていきました。
カブトの心は嬉しく楽しく、明るい感動で一気に燃え上がりました。
 飛べるんや、飛んどるんや!
夢中になって羽ばたき、我を忘れて畑の上を飛びました。
ねぶか畑、西瓜畑を越え、清いせせらぎと黄色い待宵草の花群れを越えて、青々した稲田の上を飛んでいるのでした。
こんな日が来よぅとは、土の中では夢にも思わないことでした。
けれど、今や大小二本の角(つの)と六本もの足があり、新天地を飛んでいるのでした。

 稲田(いなだ)遠くには村里の家々の明かりが、いくつも、ほっかり灯(とも)っています。
カブトは目の前の、こんもり、うっそうと繁る暗い林の中へ飛びこみました。
 林の中は太い木や細い木が長く伸びた枝々に青葉を生(お)い繁らせて並び立ち、木と木の間にも夏草が繁っています。
太い木の青葉の下で、シロシタバ(ガの一種)が三匹、くるくる輪になって追いかけあい飛び舞って遊んでいるのでした。
つる草のからむ木と苔むした木の向こうから甘い匂いがして、木立をぬって飛んでいくと、奥からカミキリ虫がブーンと飛んできてすれ違っていきました。
甘いよい匂いは、太い木と木の間の向こうの古いクヌギのゴツゴツした幹(みき)からです。
 
 カブトはクヌギの幹のまわりを飛びまわって幹の中ほどにバシッ、と止まりました。
「ヒャー」
近くに休んでいたビンク色のベニスズメ(ガの一種)が、音のショックでバッと幹から離れ、ふわふわと飛んですぐに元に止まりました。
「ご、ごめんなさい」
カブトは赤くなって頭をさげました。
「あ、いえ、ぜんぜん大丈夫やわぁ」
ベニスズメが明るく笑いました。
ブーンと、葉色のカナブンが、幹の上の方の裂け目から飛び立っていきました。
クヌギの幹は固く、ひからびたようにゴツゴツ、カサカサしています。
そんな木肌の裂け目から、糖が発酵して甘い匂いの樹液(じゅえき)がにじんでいるのでした。
液に集まっているミヤマカミキリも、コクワガタもヨツボシケシキスイも、おとなしく静かにして飲んでいるのでした。
カブトも近づいて、裂け目の液をそっと飲んでみました。
 ぁぁなんと美味しいのや。
口の中になめらかに、まろやかなソフトな甘みが広がってとろけました。
腐葉土にくらべれば、夢のような味です。
ひと口飲むたびに、夢見心地になりました。
 この天地は幸福の遊楽園、素晴らしい所、これからどんな楽しい日が来るんやろ。
成虫になった喜びに胸を温かくふくらませる、嬉しい夜でした。
この夜、カブトは澄んだ目をきらきらさせて林の中を飛びまわり、カブト虫やクワガタ虫が大勢いることを知りました。
 
    つづく   

       

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