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zoom RSS 長編童話  楽園の王者

<<   作成日時 : 2010/09/02 23:05   >>

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   17  虫カゴ、奪われた夢と自由

 つゆ草の林で、カブキチとカブヒコは一息ついていました。
太いクヌギには、虫柄の良さそぅな5匹のカブト虫がいて、
「カブトはたぶん、間もなく帰りますやろで」
と、二匹をねぎらいました。
暗かった林は、いつの間にか薄明るくなってきました。
樹液を飲んだ後、カブヒコは、とても疲れている様子のカブキチに、
「ちょっと休んだら」
と、土の中に入るのをすすめました。
心配して、ここまでついて来てくれたカブヒコの優しさに、
「ありがとぅございます。・・・カブトが帰ったら起こしての。すまんことやのぅ」
と、頭を下げ、申し訳なさそぅにカブキチは土にもぐりました。
カブヒコはまだ元気があり、広い林の中を見たいと、あちこち飛びまわりました。
 田畑も林の樹木も草むらも、明るい朝の光りに清々しく照らされていました。
朽木の近くの草むらで眠っていた長太は、足音で目を覚ましました。
「なんや、人間か」
二人の少年が虫カゴと白い網を持ち、薄暗い林の中へ入っていきました。
「人間が来るとロクなことねぇ。おいらは嫌いもええとこ、死ぬほどや」
人間から受けた仕打ちを忌々(いまいま)しく思いながら、かすかに痛む胸腹をいたわり、目をとじてしまいました。
 今夜中にしなければならなかった用をすませて、林へカブトが帰ってきました。
クヌギに着くとカブト虫たちが、
「お客さまがみえてるでな」
と、二匹の訪れを伝えました。
液を飲みながら、スポーツ会の話を聞くと、五匹のカブト虫が、
「ぼくらも行くでの」
「ほれがすんだら、この林の虫を集めてしょうや」
と、わくわく明るい顔で土の中にもぐっていきました。
 林の中を飛びまわっていたカブヒコが戻ってきました。
カブトとカブヒコは再会を喜び合い、まるで昔からの友虫のよぅに、カーコのこと、カブキチのこと、スポーツ会のことと話がはずみました。
 その二匹を、クヌギの幹に見つけた子供が二人、捕(つか)まえよぅとして草をかきわけ、音もなく近づいて来ていました。
話し込んでいたカブヒコとカブトの目の中に白いものが飛びこんできたと思うや、ガサッ、と大きな音がして、あっといぅ間に白い網と共に木立の空間を回転していました。
何が降ってきたのか起きたのか、動転してしてもがく二匹の全身を、すっぼり包むやわらかい手が、逃がすまいとしっかりつかみました。
 二匹は手の中で必死にもがいて抵抗しました。
けれど、次々とオリのよぅな小さな竹カゴの中に押し込まれ、上から下に、バタン、とフタの扉が閉まってしまいました。
 狭いカゴの中には、青ざめ絶望にゆがんだ顔の三匹のカブト虫と、二匹のクワガタ虫と一匹のカミキリ虫がいて、恐怖に色をなくしたカブトとカブヒコを注目しました。
「八匹も採れたで、もぅええな」
五年生の兄が言いました。
「うん、ようけ採れてよかった」
カゴにひしめく虫達を見て、三年生の弟、ひろしが嬉しそうに言いました。
「ん、帰ろか」
カブトとカブヒコは何としても外へでなければと、入り口の細い竹にガジガジ足を引っ掛けたり、扉を角(つの)でウンウン押しました。
けれど、どんなにしても扉が簡単に開くものではないと知ると、カブトは全身から血の気が引いて地獄の底に沈む気持ちにおそわれ、力なく、その場におとなしくなりました。
カブヒコはとまどい怒りにふるえる目で、自分より幾百倍も大きな、力が強い、どうあがいても勝てない生き物の正体を見極めよぅとしました。
けれど、全体の姿は大きすぎて、カゴの中からは見ることができません。
「生き物のチャンピオンや!」
そう言って皆の顔を見ました。
カブトはメンタの言葉を思いだしました。
「人間て言うんや。ぼく、前に人間に会ったことある」
「えー!」
「どこで?」
皆の青ざめた真剣な驚きの目が、カブトの言葉を待ちました。
「間近で見たけど、ぼくに悪いことはしやへんだ。優しかった、ぼくを助けようとしてくれたんや。ほやけど、恐い人間もおるんや」
カブトは、おばあさんと、長太を痛めつけた男の話をしました。
「女の人間は優しかったけど、男の人間は油断ならんで。ぼくらと同じや。武器を使うでの」
カブトは凛とした目で息をついて口元をきりりと引きしめ、どうしたら出られるのかと考えました。
クワガタ虫もカミキリ虫も、カブト虫も口々に言いました。
「なっと(どう)なるんやろ」
「ここから出たい」
「どこへ行くんや」
「何で捕まえられなければならないんや」
「ぼくら、悪いことしとらんぞ」
「ぼんらをどうするんやろ」
カブトが皆の目を見て言いました。
「逃げるのは、扉が開いたときしかあらへん。人間は大きて力も恐ろしく強いけど、空を飛ぶことはできやん。ぼくらは飛んで逃げるしかあらへん。飛びかかっても、つかまってひとひねりされたら終わりやでの」
皆、ブルッとふるえて身を引きしめました。
気を引きしめ、腹を決めたカブヒコがすわり直して言いました。
「皆、必ず逃げような。無駄な抵抗は体力をなくすだけや。おとなしく、このまま、人間のスキを待つんや」
必ず逃げる、と虫達は目を光らせ、全員が一致して腹を決めると元気がでて、少し落ちつきました。
 兄とひろしは林のふちに出ると、置いてあった自転車の前の荷物入れへ虫カゴを置き、田畑の中を一路、村へと走り続けました。
暑い日差しを受けつつカタカタゆられ、虫達は不安と怒りと焦りを抱(いだ)きながら、各々が家族や仲間や恋虫のことを思い浮かべつつ、行く道のでこぼこや草の繁りや石ころ、田畑の風景をながめておりました。


      つづく   


 

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