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zoom RSS 長編童話  楽園の王者

<<   作成日時 : 2010/08/29 00:17   >>

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   16  強い虫 弱い虫、皆の祭典へ

 コナラの幹で、カブナとカブミが声をそろえて楽しく歌っていました。
すると、近くの木に止まっていたクワガタ虫の娘が二匹、いそいそと歌声の元に飛んできたのでした。
ほほのふっくらしたクワリと、長いマツ毛のクワカです。
二匹は、にこにこうきうきと、しばらく楽しげに聞いていましたが、いつしか一緒に歌いだしたのでした。
「まあ、上手やなぁ」
「あなたらこそ」
四匹の娘は、すぐに仲良しになり、盛り上がった根っこの上に来て、かわるがわる歌っては踊りして遊んでいたのです。
そうしているうちに、シジミ蝶とカナブンが、コガネ虫がと、まわりの木の幹や枝や青葉や、草むらの葉陰に休んでいた虫達が、一匹一匹と目をさまして、わくわく生き生きと歌声の根っこに集まって来たのでした。
ハンミョウも、てんとう虫も、ヨツボシも、ハナムグリも、ルリボシやカミキリやナナホシやオオムラサキも。
そして、根っこのまわりをぐるりと囲んで、踊りに見入り歌に合わせて、色も模様も綺麗なその羽を、皆、ふわりふわりと広げたり、とじたりしているのでした。
 
 五匹のカブト虫と十一匹のクワガタ虫達は、木と木の間をぬって、コナラの根元に近づくと、その木の前にそびえ立つ大きな栗の幹に、皆、羽音をおさえて静かに止まりました。
 根っこの上では、四匹が歌いつつ羽を広げとじ、入り交じったり並んだり、くるりと回って片羽、両羽を広げとじ横へ前へと身のこなしもあでやかに踊っているのでした。
清らかな歌声は楽しく胸にひびき、花のよぅな踊りは美しく可愛く心を奪い、満月のよぅに明るく優しく皆を和ませたのでした。
 
  赤い星 青い星あそこ
  きらきら万のお星さま
  個性も光るわ万の虫
  樹木の繁れるここお城
  今夜は一緒に歌いましょう

「かわいい」
「ええのぉ」
カブト虫もクワガタ虫達も、うっとり夢の世界に誘われていきました。
「ヨォーッ、ええぞォー」
クワガタ虫一匹の、感きわまった高い声が根元とあたりの青葉に響きわたりました。
すると、歌も踊りもビタリと止んでしまい、四匹と根元の虫達が、いっせいに向きを変えて声のした方を見たのです。
そこに見たのは、太い栗の幹にずらりと止まった大勢のカブト虫とクワガタ虫の姿、皆、物々しい武器を持ってこちらを見下ろしているのでした。
その中に、カブトの姿を見つけたカブナとカブミは笑顔になり、クワリとクワカは、大勢のクワガタ虫を見て赤くなりました。
けれど、他の虫達は、驚くや顔を曇らせ身を硬(かた)くし、身がまえてしまったのでした。
武器で争い、弱い虫をおしのける、忌まわしい日頃のふるまいを思ったからでした。
根元の雰囲気は、見るも険(けわ)しく、一匹一匹の顔つきと態度が怒っておりました。
その変わりよぅは、夢見心地にあったカブト虫とクワガタ虫達の心に、いきなり、ドッカンと大穴をあけるほどのショックを与えたのです。
その姿の立派さと強い力において、この虫達から一目おかれているものと固く信じこんできたのです。
けれど、真実は、どんなに嫌がられ敬遠されていたのかと、思い知らされたのでした。
カブトは、淋しい心で日頃のかかわりあいを思いおこしました。
 ぼくらは、心のままにふるまって、追い払われる心の痛みも身の悲しみも思いやらなかった。力の弱い虫達のおとなしさや、がまんに甘えて、チャンピオン顔してきたのや。
「なんや、あの態度は」
「おれらを見下げとる」
「ぶっとばしたるか」
混乱したクワガタ虫三匹が、うわずって目をつりあげました。
それを見て、無口なクワマルは、ちょっと、とまどいましたが、勇気をだして声をおさえて言いました。
「よぅ見ろや。もぅ一回目を開け、焦ったら、またロクなことにならへんぞ。おれらの日頃のありようの結果やろ」
頭から冷水をあびた心地になって、三匹は、ハッとなりました。
同じく怒りの気持ちを持ったクワガタ虫二匹は、このやりとりを聞いて冷や汗をかき、ほのとおりやと感心して、クワマルを意外と立派なんやと見直したのです。
別の三匹は、目をつりあげた虫達を、えらいビンボケやと反省をうながす目で見たのでした。 
 カブキが優しくも、自信を持って言いました。
「強い虫は、優しい虫なんや。優しいて思いやり深いことなんや。ぼくらは強い虫やで、皆の幸福を考えられる虫になろ」
カブヤも明るく言いました。
「縁する虫を不幸にせんとこ。ぼくらは良いことをして幸福を作る虫になるんや」
「もちろんや」
カブトが朗らかに言いました。
 けれど、誰もが、いかめしい態度の根元の虫達には近づきがたく、じっと根元の虫達と見合ったままでした。
 これまで良い関係やなかった、と思ったとき、カブトの頭にバッとひらめきがありました。
「ほぅや、流れを変えるチャンスなんや」
そぅ言って、ともかく今、心を通わせなければと思いました。
カブトは、いつも耐えてきたに違いない虫達の気持ちを思って幹を下り、根元に行きました。
「こんばんは。歌と踊り楽しかったです」
硬い冷ややかな顔つきの虫達に、カブトは明るく、にこやかに話しかけました。
「大勢で驚かしてしもて、ごめんなさい。ぼくらも一緒に歌って踊りたくなったのや」
とりどりの虫達は、自分と同じ思いであったと知ると、カブトを悪い虫ではないと、他の大勢をいぶかりながらも、ほっと安心して肩をおろしました。
 サー、とカブキとカブヤが飛んできました。
「こんばんは」
「こんばんは」
明るい笑顔で虫達に言い、それから、カブナとカブミを見て、喜んで言いました。
「すごく良かった。もっと見たいな」
「可愛かった。ぼくも歌うの、好きやでな」
二匹のカブト虫の明るさいっばいの姿を見て、根元の虫達は目を丸くしました。
そこへ一斉に、残るカブト虫とクワガタ虫達が、ガサドサドサガサッ、と飛んで来て、思いがけなく虫達をぐるりと取り囲んでしまいました。
気の弱いスズメガは、何が起こるのかと青ざめ、いち早く羽を広げて飛び上がりました。
嫌われているとショックを受けていたのに、再びショックを受けたクワゾゥは、つい、大きながなり声を放ってしまいました。
「逃げんでええッ!」
声恐ろしく、身ぶるいして縮まったスズメガは広げた羽も凍りつき、上がった所から、ストンと真下の根っこに落ちて尻もちをつきました。
カブナとクワリと、カブミもクワカもかけよりました。
「あ、大丈夫ですか」
「ああ、ありがと。大丈夫です」
スズメガは半泣きして、しょげました。
飛んで逃げることもできなくなって、身を硬くした虫達は皆、はらはらと恐れ、カブト虫とクワガタ虫の顔色をうかがっています。
 これはまずい。と、クワゾゥは、すぐに声色を変え、しおらしく気持ちを伝えました。
「すまん。皆に悪いことはせんでの」
スズメガは、おびえと痛みに顔をゆがめたままです。
「痛いか?」
と、困ったクワゾゥは、なんとか身体の痛みを忘れさせよぅと焦り、思いつきで、あさってのスポーツ会の話を始めました。
 話を聞きながら、これまでとは様子が違うので、よぅやく虫達は胸をなでおろし、一匹一匹と、自分の早とちりに気がついていきました。
おとなしく話を聞きながら、虫達の心の中に、しだいに強い虫への信頼と憧れがよみがえりました。
活気づいて目を輝かせた虫達に、キバオが呼びかけました。
「皆、あさってな、ヒマやろ?よかったら、応援してくれや」
スポーツ会を見たいと思ったヤブキリもカミキリもルリボシもカナブンも、皆、顔をほころばせて喜びました。
タッタカ、タッタカ、タッタカ、タッタカ、タッタ、タッタ、タッタ、タタタタタタ。
「早う、あさってになって欲しい」
と、ガタハチが、あふれる笑顔で上手にタッブダンスをすると、皆、喜んで注目して胸を躍らせました。
カブイチが虫達に言いました。
「皆さん、どぅやろか。スポーツ会に皆さんの歌と踊りをしてもらったら」
「ええな、ええな」
クワルが喜んでキバを広げ、Vサインをしました。
いつしかコナラの根元は楽しく和やかな熱気に包まれて、皆の夢もふくらんでいました。
カブトの目の中に、七色の虹の輪が広がって見えたのです。
「歌と踊りとスポーツな。スポーツ会は、皆の祭典にしょう。皆で楽しくしょう」
ススメガが、オレンジ色の羽を広げました。
「私も、踊るし歌うわ」
ルリボシも、ブルーの誇りの羽を広げて胸をそらせました。
「よしゃ。仲間を集めて盛大にしょう」
虫達は心を合わせて語り合い、根元は一気に和気合い合いとにぎやかになりました。
そして、どの虫も、瞳に綺麗な虹を宿して散っていきました。

今夜は、林の中がにぎやかなこと。
カブヒコと、ひと足遅れで木に帰ったカーコは、そのにぎわいを見てみたいと思いましたが、カブヒコが帰ってきて、自分がいなければ、どんなにがっかりするやろかと待っているのでした。
 にぎやかだったコナラの木から、同じ林の中で、それほど遠くないカーコの住む木へ、カブトが飛んできました。
カブトが幹に止まると、枝から笑顔いっばいのカーコが急ぎ足で下りてきました。
落ちついて幸せそぅなカーコは、はつらつとして前にも増して元気そうなカブトの姿に、
「元気で何よりやなぁ」
と喜び、どうぞと樹液の前につきました。
カブトは、二口、三口、美味しく液を口に含んで、スポーツ会の話をしました。
「ほれはええことやなぁ。カブヒコが帰ったら、きっと伝えます。歌が上手やし、力自慢の虫やもの、きっと喜んで行くことやろ。カブヒコが帰るまで、ここを動かんと待ってます」
カーコは元気で卵を産むことができた喜びを話し、久方ぶりに話がはずみました。
カブトの話も楽しく、カーコはうなずき、うなずきして言いました。
「誰かを苦しめて得た幸せは本物やないのです。心から晴れ晴れできないもの。ほやけど、誰一匹不幸にはしないていぅ皆の幸福を思う大きな心のあるところに、うるわしい幸福の花が咲くのや。相手を思う優しさが争いの心を露と消して、安心と認め合う気持ちを生むからやわ。ほんとうの平安と幸せは、思いやりの心から広がるのや」
話はいつまでも尽きないのでした。
カブトは心残りがしましたが、今夜中に、カラスウリの林に住む、メンバー予定のカブヨシに会わなければならず、飛び立って行きました。
 スポーツ会の夜、カブキチにも会えるかもしれない。これを機会に林の中に争いがなくなっていったら、どんなに安心やろか。
カブヒコを待ちながら、輝く明日を夢みて、カーコは幸せでした。

「この林に来て良かったわ。もぅ、よそには行きたくない」
カブナがしみじみと言いました。
「同じこと思てたわ」
カブミがにっこりして言いました。
「いくつも林を越えて来たけど、ここがええ、平和やもの。ほれに恐ろしい巨人の住家も遠いし。あんな恐いこと、もぅいやや」
前に暮らした林では、あやうく生け捕りになるとこやった、と思い出すたびにぞっとするのでした。
「あ、カブトさんや。追いかけよぅ」
コナラに止まっていた二匹は、木立をぬって飛んで行くカブトの姿を見つけて嬉しくなり、後を追って飛びました。
けれど、林を飛び出たときには、大空をずい分と先へ行っていました。
「早いこと、追いつけないわ」
カブトが遠くへ行ってしまう。
カフナは、なぜか不安を感じて泣きそうになりました。
ふいに淋しさのよぅなものを感じたのは、カフミも同じでした。
「あそこへ行かへん」
 
 大空の下のはんの木から、二匹は頭上に降るよぅな、きらきら銀色に輝く星々をながめました。
「私らの歌を聞かれやんしたヤブキリさんが話してくださったのやけど、なぁ、あの赤いのはおばぁさん星やて。、青く光っとるのが赤ちゃん星やって」
「ふーん、お星さまも、生きといでるのや」
神妙な面持ちになって、二匹は深遠な星空を見直すのでした。

 明るい月の光りをあびて、カブトはからすウリの林へ向かって飛んでいました。
 月は万物に、いつでも平等に優しい光りを注ぎなさる。決して偏(かたよ)ることなく。
カブトは月の心に照らして、我が心を思いました。
 月のよぅな大きな心を持ちたい。
心は、熱く静かに理想に燃えていました。


       つづく   



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