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zoom RSS  長編童話  楽園の王者

<<   作成日時 : 2010/08/22 00:30   >>

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   15  最悪を最善へ、平和を願う心

 林のふちに咲いていた青い花、カブキチに見せてあげたかった。
 あれからどうしているやろ。
家々の明かりが、ほっかり灯る村を後にしたカブトは、月に明るい田畑の上を飛びました。
こんもり小さな林を越え、小川を越え、カラスウリの実のなる林を越えて、カブキチの住む林に来ました。
けれど、あの夜会った木にも、まわりのどの木にもカブキチはいなくて、コナラの幹に休んだのです。
 元気になって、つゆ草の林へ向かったのや。
そう思い直して、後を追おうと、どの方向へ行ったのかを考えました。
 そこへ、カブナとカブミがサワーと飛んできて、カブトの後ろへ止まりました。
カブトの後ろ足に、枯れ草がからんでいます。
「ぁ、草が」
カブナは、足にからんだつゆ草の茎を取りのぞきました。
カブトはふり向き、会釈してカブナを見ました。
「ありがとぅ」
「いいえ」
と、目鼻立ちもすっきり美しいカブナは、カブトの澄んだ輝く目を見て微笑み、カブミも可愛らしい笑顔で「はじめまして」と、会釈をしました。
「カブトォー」
「ヤァー、カブトー」
明るい呼び声と共に二匹のカブト虫が風のよぅに飛んで来て、勢いよくガサッ、ガサッと幹に止まりました。
つゆ草の林で親しくなったカブヤとカブキが明るく笑っています。
「ヤァー、こんばんは」
カブトも朗らかに笑いかけました。
カブナとカブミは、ほほを染めて樹液の前へ行きました。
「はんの木におったら、別のはんの木から飛び立つのが見えての、追いかけて来た」
「早いから、林に入ったら見失って、あちこち探したんや」
「見つかって良かった」と、はずむ声でカブキもカブヤもにこにこしました。
 それまでこの幹で、静かに液を飲んでいたカブト虫のカブロゥが、早飛びには自信があるので、はりきった顔を向けて言いました。
「飛ぶん早いんか? 僕も早いよ。飛び比べしょうや!」
カブヤが明るく答えました。
「ええよ」
すると、幹に休んでいたもう一匹の、おとなしそうなカブト虫のカブイチが、「ぼくも」と加わって、五匹で林の木立をぬって早飛び競争をして遊びました。
 しばらくすると、カブキがフーフー、息をはきました。
「ちょっと、タイムや」
五匹は仲良く、一本のコナラに休みました。
 休んだ木の横に松の木がありました。
木の下に松カサがいくつもころがっています。
「あれ、飛ぶかなぁ」
思いついて、カブトが根元に下りました。
そして、松カサを角(つの)でひっかけると、ボーン、ボーンと、飛ぶのが面白くなりました。
幹に止まって見ていた四匹も、同じよぅにしてみたくなって幹を下りて松の木の下に来ました。
そして、松カサをひっかけて転(ころ)がしたり、角で打ったりして、これもどこまで遠くへ飛ばせるか、ヘッドボールを競い楽しんでいました。
 五匹のカブト虫が遊んでいるのを、少し離れた木の幹から、ながめていたクワガタ三匹がいました。
「あいつら、チャンピオン大会しとる」
「ほぅや、今夜こそ、こらしめたろか」
クワガタ虫の相談はすぐにまとまりました。
そこで、単独では力が劣る、と、団結することにしました。
 三匹は林の中の近場に散って行き、休んでいるクワガタ虫を呼び集め、すぐに十一匹になりました。
「よし! もぅ、チャンピオンなんて、我が物顔はさせんッ」
「おれらを見くびって、話し合いにならんだら、いっせいにとびかかってコテンバンにいためつけ、思い知らせてやるんやッ」
日頃、戦々恐々と悩まされ、争いにとらわれ、心の自由さえなくしているクワガタ虫達の士気は盛り上がりました。

 五匹の遊んでいる所へ、いっせいに十一匹がやって来ました。
「やい! 話があるぜ」
語気も荒くクワゾゥが切り出し、キバオが、
「お前ら、この林から出ていけッ!」
と、ありったけの声を出しました。
突然、ふってわいた出来事に、五匹のカブト虫は、どぅなることかと驚き、肝を冷やしました。
 こんなとき、びくついて逃げよぅとしたら、やられてしまう。落ち着いて話を聞くんや。
カブトは心の臆病を打ち砕き、心を強く大きく、と、胸にいましめて言いました。
「こんばんは。何かありましたんやろか」
「オッ!」
動じない清い目の輝きに、少しひるんだクワガタ虫達は、怒りのままに言いました。
「仲間がぶん投げられて迷惑しとるんやッ」
「一匹は頭の打ちどこが悪て、死んでしもた」
「樹液は皆のものやッ!」
「あんたらだけの天下さまかッ!」
クワゾゥもキバオも、アゴタもガタハチも、頭に湯気をたてて興奮しています。
クワガタ虫達の気持ちは、カブト虫達の気持ちでもありました。
怒る気持ちをよく理解したカブトは、これまでの仲間の行いを詫びなければと思いました。
「わかりました。ほのとおりです。すまんことやったです。ぼくらも、皆が食べられるよぅ、仲良く分かちあって楽しく暮らせる天地にしたいて話し合ったばかりです。これまでのこと、許してください。」
カブキとカブやも言いました。
「ほのとおりです。すまんことやったです」
カブロゥもカブイチも、うなずいて言いました。
「皆で、ええ林にしょう。今までのこと、繰り返さんよぅにしょう」
クワガタ虫十一匹は、あまりに素直な言葉に、わき立つ怒りもスッと消え、後の言葉はなくなってしまいました。
 悪いのは一方ではないと、誰の心にも思いあたるものがありました。
態度が和らぎ、顔に笑みもこぼれて、さすが甲虫のチャンピオンと、カブト虫を尊敬する気持ちがわき、好意を持ちました。
「さっきは、怒って、すまん!」
クワゾゥもキバオもアゴタもガタハチも、勇ましく詫びました。
五匹のカブト虫達は、クワガタ虫を、たのもしくて、本当は良い虫なのやと好感を持ちました。
皆、争いの無い平和な暮らしを願っているのでした。
「これ、面白いんや。一緒にしょう」
にこやかなカブキの優しい誘いに、十一匹は喜んでヘッドボールの仲間入りをしました。
 皆が仲良く分かちあったり助け合って楽しく暮らすなら、皆の心から争いも不幸も消えていくやろ。不幸を招く真の敵は、いつでも心の中に、負けたらあかんのは、わが心。
カブトは心の中の小心弱虫を、根こそぎ大空彼方へ追い払う気迫を込めて、思いきり松カサを飛ばしました。
「ワーッ」
と、歓声があがりました。次に、キバオがキバで飛ばしました。
松カサは、松の幹にぶつかって飛び、キバオの目の前にコロリと落ちました。
「アー、ァ」
と、声があがり、楽しい笑い声が広がりました。
 いろいろな虫がいて、生き物がいて、いっそう楽しくなる林。
この天地に住む生命、皆、愉快に幸福に暮らすための素晴らしき仲間なのや。
争いを捨て、解放された心の自由。
無心に遊ぶ虫達の瞳は美しく、爽やかな喜びにあふれていました。
カブトも、カブキもカブヤも、皆も、この里を永遠の楽園にしたいと思ったのでした。
 汗を流し、遊びも一息ついて、皆で幹に登り、樹液を囲みました。
どの虫も青春の躍動を予感していました。
クワガタ虫から、また競技したい、と喜びの声があり、次は二日後に、どちらも十一匹集まることになりました。
競技は、早飛び、ヘッドボール、相撲の三種目で、”青年親善スポーツ会”と決めました。
 スポーツ会を思って、わくわくしていたクワガタ虫のクワルが言いました。
「ほいでな、賞は何かないの?」
どの虫も、考える顔になりました。
「ほうやのォ」
「樹液は皆のものやしのォ」
カブトは、止まっている木の、てっべんを見上げて言いました。
「あの星、賞にどぅやろか」
皆、いっせいにてっべんを見ましたが、枝いっばいに繁る青葉で、大空も星もチラチラと、わずかしか見えません。
けれど、カブやが名案ときれいな笑顔でいいました。
「ほれ、ええな。最優勝者には、一番星をあげるのや」
クワルが、きらきらした目で言いました。
「ほしたら、他の虫はないの?」
「おれなんか、優勝できると思う?」
と、細身のガタハチが言いました。
同じく、細身のキバクワが言いました。
「ぼくも自信ないで、安心しな」
皆、どっと笑いました。
どの虫も優勝に自信がないのは同じでした。
カブキが言いました。
「ほんなら、皆にあげたらええ」
クワジの考える目が、バッと光りました。
「うん、ほぅや。二番目には二番星、三番目には三番星、順番に一匹一つの星さ」
ボンボン、バンバン、皆いっせいに足を鳴らしました。
賞は決まりです。
「星って、遠いやろ。一生、足に届かんと思とった」
ノリで言った一言を、皆が真剣に受け止め考えて、良い賞のできたことで、クワルの心は温かく満たされ、この楽しい良い仲間を大切にしょうと勇気と希望に燃えたのでした。
 
 全体の話し合いは終わり、これよりグループになっての打ち合わせです。
五匹のカブト虫は、樹液のにじむ所を大勢のクワガタ虫にゆずり、太く伸びた枝へと移りにかかりました。
「すまんなあ」
クワゾゥが声をかけました。
「ぼく、高い所好きなんや。ハハハハ」
カブキの楽しそうな笑い声に、クワガタ十一匹も笑顔になり、悪がりながらも液を囲みました。
クワガタのグループは、
「明日の夜、集まってけいこをしょうや。ほれから、おれらで散らばった松カサを集めよぅぜ」
早々に話もまとまり、この後は、
「飛ぶの早いか」
「どこで生まれたんや」
と、雑談が楽しく始まりました。
 カブト虫のグループは、足りない六匹のメンバーを、各虫一匹づつ推薦して十匹が決まり、あと一匹になりました。
「カブヒコはどぅやろ」
と、推薦したカブトを、カブロゥとカブイチが、びっくり顔で見ました。
「前に、思いきり投げられたんや」
そぅ言ってから、カブロゥは心に疾(やま)しさを感じて、カブヒコを嫌っては悪いと、思い直して言いました。
「けど、もぅ前のことやし、スポーツ会には強いのが頼もしいで」
カブイチもうなずきました。
「強い方が頼もしいでな」
話もまとまり、五匹のカブト虫は、今夜中に推薦した各虫に会うことと決めました。
蒸し暑い林の中に、木の葉をゆらす涼しい風が通りぬけていきます。
その心地良さに、ふと、話し声もとぎれて静かになりました。
すると、美しい歌声が、かすかに聞こえてくるのでした。

 紅(くれない)のお陽さま暮れて
  青い夜空にお月さま
  心も大きな夢あふれ
  緑の清しい良いお里
  今夜もはつらつ飛びまする

「行ってみよぅ」
カブト虫達が飛び立つと、クワガタ虫達も、次々と幹を飛び立ちました。


     つづく    



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