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zoom RSS 長編童話  楽園の王者

<<   作成日時 : 2010/08/11 00:17   >>

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   13   無残な姿、長太とつゆ草

 つゆ草の花が咲く中に、光り輝く姿の長太がいます。
からすうりの実がなる林のクヌギの幹で、真夜中になって、つい、うとうとしていたカブトは、はっ、と目を覚ましました。
 今のは夢か。
つゆ草と長太の姿が、覚めてからも焼きついて離れません。
 長太さんに何か、いいことがあったのかな。
カブトはつゆ草の林へ帰りました。
朝日が昇り始めると、西側へ飛んで行きました。
青い花はいつものよぅに咲いています。
間もなく、朽木のそばへ長太が現れて、「こんにちは」と言うと、のんびりとぐろを巻きました。
毎朝しげしげと、つゆ草をながめているカブトの姿を見ると、長太はほっとするのです。

 しおからトンボのメンタが、林のふちをゆっくり、のんびり飛んでは休みしています。
 毎日、同じくり返しなんて、生きとるって、退屈やなぁ。
ふわーと、ねぼけまなこに、あくびがでました。
 民家の方から、ジーバン姿の男が何やらかついでやってきました。
まもなく、男は西側のふちの角(かど)にくると、そのでこぼこ道の端に、鎌とベンキの缶とハケやらを、どさりと下ろして、肩にかけたタオルで、吹きでている汗をぬぐいました。
物音に、草むらから長太が顔をあげて見ています。
男は、林のふちの草刈りと、所どころに打ってある杭(くい)にベンキを塗りに来たのです。
目の前の古い杭に、つゆ草が繁って伸びているのを見ると、日焼けした両手で、すばやく根っこからひと抜きしました。
驚いた長太は、
「やめてください。つゆ草はカブトが大切にしとるんや !」
と、叫びつつ男の前にとびだしました。
長太の声は男に聞こえるはずはありませんでしたが、大きな口をあけて、いきなり飛びだしてきた長くて太い蛇に青くなり、恐ろしい顔でそばの鎌を取って長太にふりあげました。
そして、足元の蛇の胸や腹をおもいきり、二、三度ふんづけ、頭の方へ鎌をふりおろしましたが、長太がうまくかわしました。
ほんのわずか、男と格闘しましたが、長太はかなわないと知って、夢中で草むらへ逃げました。
 メンタはこの恐ろしい事件にふるえ、眠気もさめ、飛ぶこともできなくなりました。
「何という気味の悪い」
男は青くなった顔のまま、鎌でつゆ草を刈り取り、木の杭にベンキを塗っていきました。
メンタは心配になり、やっとの思いで、長太のそばへ行きました。
「カブトォー、カブトォー !」
長太が苦しげに、あまりに呼ぶので、急いでメンタは林の中へ飛びこみました。
会ったことのないカブトを探すのは、簡単なことではありません。
けれど、用を命じられた使者のように、メンタは林の中を、
「カブトォー、カブトォー! 」
声がかれるほど呼び続けて飛びました。
陽もだいぶん暑くなり、カブト虫達は姿を隠しているので、探すのは、なお、むつかしくなっていました。
しわがれた声で叫び、懸命に飛んでいたメンタでしたが、草の上で一息入れて、大声で、「カブトォォー」と、叫んだところ、奥の小枝に網をはっていたコガネグモが、
「なんや、どぅしたんや。カブトならさっき、ほこのクヌギの根元へもぐったところや」
と、声をはりあげ教えてくれました。
頭の土の上で、自分を呼ぶ声に、ムクッ、と起きたカブトは落ち葉の中から顔を出しました。
「ぼく、カブトです」
「おれ、メンタです。大変、大変なんです」
青白い顔で、今しがたの出来事を、一気に話しました。
カブトはメンタと西側へ急ぎました。

 いくつかの杭はベンキが塗ってあり、男は、せっせと働いています。
塗りあがった杭は白く光っていましたが、抜き取られ、刈り取られたつゆ草は、無残な姿でかたわらに横たわっています。
カブトは息をのみました。
胸に痛みの稲妻が走りました。
大切な、かわいいつゆ草の花びらは、まもなくしおれていくでしょう。
明日は会えなくなる美しい花、青い花、けれど今、つゆ草のために何ができるでしょう。
「カブトさん、毎日見てくださって、ありがとうー」
悲しむカブトの耳に、たしかに、つゆ草の声が聞こえたのです。
カブトは泣きながら、今は、長太のもとへ行かなければと思いました。
「長太さん、長太さん」
朽木の向こうの草むらから、うめき声がしました。
胸から腹にかけて、むらさき色にはれあがり、首を地面にベッタリ落とした長太がいました。
カブトが来たのだとわかると、
「おいらは死ぬのかああ」
と、情けない声を出しました。
「長太さん、痛むかい。大丈夫やからしっかりしてな」
大丈夫と聞くと、長太は、死ぬほどではないんやと、一安心できました。
「民家に、" 医者いらず ゛ていう薬草があるの、知ってます」
と、メンタが静かに話すと、カブトは、
「どうでも、ほの薬草が欲しいです」
と言いだしました。メンタはしっかと目を開いて、
「ほんなら、案内します」
と、先に飛び出しました。

 かっかと照りつける、まぶしい光の中を飛ぶのは、夜光性のカブトにとっては、生命を縮めるよぅなものでした。
けれど、自分のためにこんなになった長太、今、長太の苦しみは、カブトの苦しみとなっていました。
メンタはスピードを上げて、畑を越え田を行きます。
まもなく村にさしかかり、いくつもの瓦屋根の上をすいすいと、一軒の生け垣に囲まれた広い庭の中へと入って行きました。
「これです。カブトさん」
植木の立ち並ぶその隅に置いてある、古い火鉢の中いっばいにそそり立つ、緑の葉先に止まると、メンタは言いました。
けれど、ここまで来ても、この、がっしりした葉を、どぅしてもぎ取ればよいのでしょう。
もぎ取るには相当の力がいり、とてもやさしいことではありません。
メンタとカブトは、知恵を出し合いました。
「ほんなら」
と、メンタは勇気を出して、すいすいとお庭で洗濯物を干している、おばあさんのそばへ行きました。
おばあさんは、飛んできたシオカラトンボを目で追いました。
メンタは目の前で、空中回転アクロバット飛行をして、おばあさんの注意をひきました。
それから、「こっちへ来て、こっちへ来て」
メンタは叫びつつ、アロエの葉先へ飛びました。
ついに葉の先へ止まったメンタの方へ、ゆっくりと歩いてらしたおばあさんは、メンタを見て、それから火鉢をながめ、アロエの根元に、静かに、うずくまっているカブトをみつけました。
「まぁまぁ、こんな所で、大丈夫やろか」
と、心配顔をし、どぅしたらええのか、という顔をしましたが、すぐに、アロエの根元から、ふっくらした長い葉を一本もぎ取り、片側の皮をはいで、白いゼリー状の上に、カブトをつまんで乗せました。
「この液を飲んだらええ」
そぅ言うと、また、元へ戻り、洗濯物を広げて干しはじめました。
必死の作戦は、見事大成功をおさめました。
満面笑顔の喜々としたメンタに、厚くお礼を言うと、心をはずませ、カブトは六本の足で自分の背丈の四倍ほどもある薬草をかかえて、元気いっばい空へ飛び上がりました。
民家の瓦屋根の上を行くと、庭先で遊んでいた子供達が、
「あれ、なんやろ」
と、見上げて声をあげました。
陽が一段と熱を増していて、きびしくふり注ぎます。
暑さで身体はゆだりそうに、まぶしい光に目も開いていられなくなりました。
けれど、皆の真心が嬉しくて、力強く飛びました。
 西側の長太のもとにたどり着くと、ゼリー状の葉を、はれあがった身体の下に押し入れていきました。
「長太さん、すぐに良くなるで、このままじっとしとってな」
長太は、すやすや眠っています。

 翌朝、長太の元に飛んできて、身体の具合をみてみると、冷たいゼリーの湿布(しっぶ)がきいたのか、一日のうちに身体のはれはひき、楽になったよぅでした。
カブトが朗らかにメンタの活躍ぶりを語ると、長太はにこにこと喜んで話を聞きました。
白く光った杭にカブトが止まると、長太も、やわやわ動いてそばに来ました。
 つゆ草はすっかりしなびれ、花びらは跡形もありません。
「あっ、黒い種が !」
長太が明るい声をあげて、
「来年も咲くでなっ」
と、いたわりのまなざしをカブトに向けました。
見ると、乾いた葉っばの中のあちこちに種が見えたのです。
カブトの頭の中に、あの優しいおばあさんの顔が浮かびました。
 夜になって、再び西側へ来たカブトは、つゆ草の種を含んでいる茎を数本集めると、それをかかえ持って、おばあさんの家へ飛びました。
 庭に着くと、薬草鉢のそばの土を前足で掘って茎を入れ、土をかけていきました。
「ありがとう」
家の中で姿は見えないおばあさんを思い、来年咲くだろう、青い花を目に浮かべました。


        つづく     




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