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zoom RSS 長編童話  楽園の王者

<<   作成日時 : 2010/07/26 00:24   >>

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  8 クモの話、慈悲が心の王者

 さきほどのクヌギの幹は静かで、そこには見知らぬカブト虫が一匹いるだけでした。
二匹があたりを見て幹に止まると、隣の木から興奮した声がかかりました。
「もし、カブト虫さん、さっき、ここにおいでなしたやろ。あれからどえらいことが起きましたんやに」
二匹が声の方を見上げました。
すると、木と木の間にかけた編張り(クモの巣)から、黄色い横じま模様のコガネグモが、スーと糸を引いて下りてきて、二匹の目の高さの位置で止まりました。
そして、見たまま聞いたままのすべてを語ったのでした。
二匹は突然の事件、虫の死にショックで青白くなり、むごいことをする虫らやと正義心に火がついて赤くなり、けれど虫らがいつか受けるに違いない命の因果の報いを思って胸痛く、青白くなりました。
「してええことと悪いことぐらい、わかっとるやろにな。・・・・・自分の気持ちしか考えとらんで、道を誤る」
と、カブキがむつかしそうな顔でつぶやくと、茫然とした顔のカブヤが言いました。
「目の前しか見えとらんでゃ。後のことも思てたら、こんなことできやへん」
コガネグモが善良な気持ちに思いをこめて言いました。
「あのとき、もし誰かが止めておいでたら、こんなことにはならんだと思いますわ」
カブキは残念さがこみあげてきて、また赤くなりました。
「ああ、何でここにおらんだんや」
おったら止めることができたのにと、カブヤがくやしがりました。
良い心を持って虫柄の良さそうな二匹にクモが言いました。
「あの虫さん方、元気に飛んでおいでながら、夢や希望はお持ちやなかったんですかなぁ。虫さん方の社会が、いくら世知辛ても悪い心起(お)こして気ままにふるまっていたら、罪作ってもっと不幸を広げますで。どうせなら、善い心起(お)こして安心や喜びの社会にしなさったら、福徳の運(うん)を積ませていただけますのに。お二匹さんは死んでも持っていける福運を慈悲の心で積まれる良い虫でいてください。たのみますわ。わしらも安心して眠りたいですで」
話すだけ話したら、胸の驚きと痛みもいくらか和らいで、巣へ帰ろうとしました。
 
 カブヤが恥かしながらも声をかけました。
「あの、慈悲の心って?」
クモは糸を少したらして、親切に言いました。
「悲しみや苦しみを抜(ぬ)いて、喜びや楽しみや、希望や勇気を贈りたいといぅ心ですわ」
「ほれって、愛やないんですか?」
「愛は愛でも、まこと美しい大きな愛情ですわ。好き嫌い、損得でコロリと変わる、自分の気持ちしか見えとらん心ではないですわ。損も得もなしで、良くなることを願う真実究極の愛情、真心ですやろか」
カブヤの横で考える目をしていたカブキは、他の虫の気持ちまで思いやれる心かと、うなづきました。
「心が小さいと、目で見ても見えないことが多くて、大きな心持ちで見ると、目に見えんことまで見えるようになるから不思議ですわ」
と、クモが言いました。
心に目は無いから、感じ方、受け止め方が違うということかな、とカブヤは思い、カブキは見えないことまで見える大きな心、そんな心持ちの自分になりたいと思ったのです。
親切に話をしてくれるクモに、カブヤが、ふともらしました。
「運て、どうやってつくるんですやろか?」
「運は、運ぶことやで」
と、クモは考えを集中してゆっくりと言いました。
「やっばり、心がけと言葉と身体手足の行いで、この三つの善と悪の行い、毎日の積み重ねで良い方にも悪い方へも、自分が変えていくんですに」
カブヤは心の中で、心、口、身体の行い、と繰り返し、当たり前やけどほんとうやと心からうなずきました。
「この事件も、虫さん方が心に感じて思たこと言うて、悪い行いしなさって、皆で不幸へ運び合いましたんやさ。分かち合う心があったら、言葉にも優しさがでて、皆が気持ち良くおれたかもしれませんに」
クモは何より心が大事と思っているのでした。
「良くなるためには、乗り越えないとならん心が誰にでもありますわ。自分の気持ちばかり考えておるときには苦しみに感じることも、ひとたび心の目を大きく開いて見ると、謎が解けるように輝く道が開けて、楽しくなって智慧も湧いて、賢くもなりますんで。まぁ、毎日が不出来な自分の心との勝負ですわ」
二匹がうなずいて微笑むと、クモはうちとけた気持ちになって言いました。
「笑われますやろけど、わし、一生の目指すところは、心の鬼をヒゲ一本ほどもなくして、慈悲心ばかりになりたいことですんや」
でも、これがなかなかで、と心でつぶやきました。
「すごいなあ」
二匹は感激して顔を見合わせ、すぐにどちらも、
「ぼくも、ほうしますでな」
「ぼくも、頑張りますでな」
と言ったのです。すると、クモはとても喜び、活気づいた調子で言いました。
「慈悲心は心の中の心、チャンピオン(王者)ですに。チャンピオンはチャンピオンの心を持って生きるのが最もふさわしく、尊くも美しい姿ですよってな」
二匹も元気がでて、クモをよく見ると、本当に美しい姿やと見入りました。
「チャンピオンは意地悪しませんわ。チャンピオンの心を持つと何でも可能、幸福に変えていける力がわいて、グンと強くなれますよってにな」
二匹の目がきらきら輝き、カブヤが言いました。
「強い虫は、優しい虫」
と、カブキもすぐに言いました。
「強い虫は、心が大きい虫」
クモは心が通い合って嬉しく心地良く、おだやかに言いました。
「もし、この天地世界に、空気もお陽もお月もお星も、雨風も無しで、草木が一本も無しで、鳥も虫も一匹もおらんだら、一匹ぼっちの自分なら、悲して淋して、腹ペコで、干からびて生きとれるもんでもないですわ」
すぐにカブヤが言いました。
「ほんな天地世界、あったら不気味、第一、空気一つでも、あらへんだら生きていけやんのに」
「ほのとおりですわ。当たり前みたいなお陽と空気、、大地に雨風、この天地五大の命の働きと、種類いっばいの草木や虫の働きと、仲間の虫さん方が大勢おいでて、素晴らしき天地世界になりますよってな。ほのおかげさまで、こうして暮らしておれますんでな」
カブヤの目に浮かんだのは、夕暮れどきの優美な天地の景色と、種類もさまざまな虫達の姿や色や行動でした。
カブキは腐葉土と樹液を思い浮かべました。
食べ物は木のおかげ、木は土のおかげ、その土の健康を護(まも)っている土の中の無数の小さな虫達の働きを。その虫達も自分も、天地五大の働きと、まわりの草木や虫の働きのおかげで元気でいられることを。
カブキが、おだやかにゆっくり言いました。
「ぼくらも、この天地の命と、大地に生きとる皆の生命のおかげで、生まれてこれて生きとれるんやで、ほうすると、この天地世界の全部の生命が、ぼくらの産みの親、育ての親になるんかなぁ」
そこまで思いつかなかったと、クモは感じ入って言いました。
「この世界中の生命は恩ある大事な生命。お互いさまにな。わし、昔、自分が小さすぎて、おらんでもええ存在やて思たことありますけどな、誰がおらんでも荒れて貧しい、つまらん天地世界になりますわ。皆大事な生命、わしも、お二匹さんも。なにしろ言いようもなく偉大な力の天地が親の子宝ですよってな」
と、満足そうに目を細め微笑みました。
「ああ、長なってしもて。ほんならわし、このへんで休ましてもらいますわ」
クモは優しい笑顔で会釈し、糸をスッスッとたぐり登って編張りへ帰って行きました。

    つづく   
   


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