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zoom RSS 長編童話  楽園の王者

<<   作成日時 : 2010/07/17 22:16   >>

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  7 不幸を作る心、殺傷事件

夕焼けは、しだいに夕闇になりました。
心地よい眠りからさめたカブトは、いつもより活力にあふれていました。
はりきって、クヌギの根元の土の上に出ると幹に登り、そこで踏ん張りをくり返し、歩くのをくり返して、裂け目の液に着きました。
まだ早かったのでしょう。
液を飲んでいるのは、ミヤマカミキリとゴマダラチョウとスズメバチだけでした。
 カブノスケ夫妻は、今頃どこの林においでるやろ。
仲良く一緒に暮らした、今はちりぢりになってしまった四匹の仲間を思いました。
カブノスケ、カブロク、カーコ、カブキチ。土の中の日々は、どんなに恋しくても今は思い出となって再び返ることはありません。
 皆で会える日が来るといい。
カブトはゆったり液を飲みながら、今日のこの今も、いつか懐かしく思う日が来るのやと思いました。
 いつの間にか、ゴマダラチョウもスズメバチも、ミヤマカミキリも姿を消して、一匹、一匹と、カブト虫やクワガタ虫でにぎわい、今夜も裂(さ)け目は大勢になりました。
こんなときは争いが起きやすいのでした。
カブト虫達は身体がふれあうと、相手を追い払おぅとして角(つの)を下げてかまえ、戦いを挑(いど)むのでしたから。
また一匹、カブト虫が来ました。自分の飲み場が無いと知った虫は、目の前で飲んでいるカブト虫の身体を、ドン!と押しのけました。
びっくりして押された虫が、すぐに、ドンと押し返して取っ組み合いになりました。
カブトは、投げられたときの身体の痛みと気持ちを思い出しました。
争いは、両方が傷つくのでした。
空腹は幾分か満たされ、心は温かく希望に満ちていました。
カブトは液から離れると声をかけました。
「あのー、ここ空(あ)きましたで、どぅぞ」
しかけた虫は、相手が以外にも力が強くて難儀(なんぎ)していましたし、片方も力を出し切って参っていました。
清々しく優しい声は争う二匹にとって幸いで、取り組んでいた動きをビタリと止めると、そろってカブトを見ました。
澄んだ目、輝く顔、凛とした姿・・・。
しかけた虫は、ハッと相手を解き離すと、おとなしく空いた場所へ行きました。
片方も、ホッと一息ついて何ごともなかったかのように、再び液を飲みはじめました。
林の空気が優しさに包まれ、カブトは幸福な気持ちになりました。
 平和そのものやったひら子さん、来る日もひからびた木肌を見とるぼくら。
 ぼくらは武器で仲間を痛めつけて一時(いっとき)だけの悲しい喜びを得る。
 ひら子さんに武器はないのに、永遠の大きな喜びと平安があろよぅだった。
ふと、誇りにしてきた頭の角(つの)が、急に何か忌(い)まわしい無用の長物のよぅな気がしたのです。
 ぼくらはどぅして角を持って生まれてきたんや。武器を持つから使うのか・・・。
 武器は誰かを痛めつけて、罪をつくるためにあるのやない。
誰かを悲しませることは、自分が苦しむこと。美しい思いやりを誰かに行えば、不思議にも 自分の心が美しくも優しい輝きに包まれて、心豊かな幸福と安らぎをいただくのでした。
 心から発した行いが、心を豊かにも貧しくもしていく、行いのすべてが自分に返るのや。
ああ、と思いました。
 それが、天が定められた掟(おきて)、生命(いのち)の因果の法律なんや。
それなら、と考えました。
 同じように見えるこの毎日、けれど何かしらある出来事。
 もしもその一つひとつの出来事を、大きな思いやりいっばいの優しい心で受け止めることができたら、そんな自分になりきれたら、悪道に堕ちやすい弱い自分に勝利の、感動と喜びの素晴らしい一生になるやろ。
そう思い巡らしながら、カブトは木(こ)もれて見える星をながめていたのでした。
 争いをしかけられたカブヤといぅ美男でおとなしいカブト虫は、カブトに感謝と憧れを持ち、友虫になりたいと考えていました。
カブトは、まだ行ったことのない林へ行こうと、身も心も軽く木を飛び立ちました。
すると、日頃から争いを嫌っているカブキという明るい顔のカブト虫が、友虫になりたくて、カブトの後を追って飛び立ちました。
それを見て、すぐにカブヤも飛び立ち、後を追いました。
 残ったカブト虫の一匹が言いました。
「ここ、空(あ)きましたで、どぅぞ、なんて恰好(かっこう)つけとる」
これに同調して、もう一匹が言いました。
「戦うのさけとるやろ。本当は弱虫なんや」
ところが、しかけたカブト虫はカブトに感謝していましたので、腹を立てました。
「弱虫小虫は、あんたらやんか。ほんなこと言うて、恰好悪いのがわからんのか。自分のことしか、思とらへんやろ!」
カブト虫二匹の頭に血がのぼりました。
「何オッ。ぼくらのこと悪う言えるんか」
「ほうや。自分は何やッ!」
クワガタ虫三匹が、そばから面白がってはやし、あおりたてました。
「オー、ヤレヤレー」
「ガンバレヨー」
この声に乗せられ、三匹のカブト虫は後に引けない気分になり、もうやっつけるしかないとお互いにつっかかり取っ組みあいました。
二対一で、一匹のカブト虫は前と後ろからのはさみ打ちとなって、胸と顔、背中をするどい爪(つめ)でひっかきまくられ、さんざんな目にあい、羽は見る間にボロボロに破れたのです。
そして、血まみれの胸を短い角で突かれ、息が絶え、木の下へ落ちていきました。
殺すつもりがなかった二匹のカブト虫は、ハッ、となり、目をむいてふるえました。
「ぼくやない」
「あんたも一緒にやったんや」
と言い合って、急いで右と左へ飛んで逃げ去りました。
あおってやらせたクワガタ三匹も青くなって、
「ぼく、知らん」
と、飛び去って、木には誰もいなくなりました。
木と木の間にかけた編張り(へんばり・くもの巣)から、事のすべてを見ていたコガネグモは、恐ろしい光景が目に焼きついて眠るに眠れなくなりました。

 カブトは、二匹のカブト虫が後を追っているとも知らず、星空の下の、広く青い稲田の上を早飛びに力を込めていました。
初めて夜空を飛んだときよりも、確かな深い喜びと心の自由を感じながら。
カブキとカブヤは、グングン先へ行くカブトに追いつけずに、声をかけあい、田の中のはんの木に休みました。そして、仲良く話をしたのでした。
落ち着き無く飛んできた一匹のカブト虫が、はんの木にガサッ、と止まりました。
楽しく話しこんでいたカブヤとカブキは、揃(そろ)って隣のはんの木を見ました。
「あれ?さっき一緒においでた虫や」
「えらぁ、顔色が悪いの」
二匹は親しく声をかけました。
「どっか具合でも悪いんですかな?」
「何かあったんですかな?」
カブザは、隣の幹に二匹の元気な顔を見ると、ブルッ、と黒く青ざめた顔を引きつらせて、急いで星空の下の青々した稲田の上へ飛び立ちました。
「ああ、何でこんなことになってしもたんや。えらいことしてしもた。アアアアアア」
血だらけの虫の顔と胸が、カブザの目から頭から寸時も消え去らず、今や未来も星のまたたきも清々しい緑の里さえも無縁となって、真っ赤な血の地獄の罪を見ながらブルブルおびえ、もがくように逃げているのでした。
「元に戻りたい。こんなことになる前に戻りたい。なっとしたら、罪が消せるんや」
虫と生まれて、決してしてはならない虫の殺傷は、この世からわが生命を葬り去ったも同じ、世界中の喜びや楽しみの幸福のすべてをなくしたのやと実感したのでした。
そして、何か大きな報いが来るのでは、と恐ろしくてふるえが止まらないのでした。
カブヤとカブキは、夜空を飛んでいく虫の飛び方が、何か普通ではないと感じたのです。
「何かあったんやの」
「あそこへ戻ってみやへんか」
二匹は急いで林の中へ飛びました。

     つづく    



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思い出は美しすぎて
2010/07/23 20:04

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