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zoom RSS 長編童話  楽園の王者

<<   作成日時 : 2010/07/10 00:42   >>

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   6 喜びと悲しみ、長太の心変わり

 明けた空に、清々しい朝日が昇り輝くと、カブトがさっそうと飛んでくるのでした。
陽がささない西側の青い花々に囲まれた杭(くい)の上に止まって、しばらく静かにくつろいで、爽やかな顔をして帰っていくのです。
三日目の朝、長太は思いました。
 こぅ毎日来るんなら、おなかがすいてきたら、バクリと食べちゃおう。
会うたびに、「こんにち は、さようなら」なんて、おいらは気おくれして声もでやへん・・・。
はつらつとしたカブトが浮かびましたが、朽木の陰で今日ものんびり、ぼんやりとしていました。
 おいら、人間が好きや。あの少年に会いたいなぁ・・・。
去年の春、あの日は長太が卵から孵(かえ)って間もない、よく晴れて爽やかな午後でした。
日当たりの良い若葉の林の淵(ふち)を、うららかに散歩していると、幼い少年と若い母親と、白い犬の亡骸を抱いた若い父親が、葉桜の木の下の動物の墓地に来たのでした。
両親は、ええところに眠れて幸せやと、草花の咲き匂う、六つ七つ小板碑が立つ後ろに穴を掘り起こして、動かない犬を埋めたのでした。
 長太は、何もかもが物珍しくて、若葉の間から息をひそめて見ていたのでした。
ほやのに、何でか見つかって、あれ、と、とまどっとるうちに、すばしこい少年の手につかまってしもた。
「頭が三角なんは、まむしやで。毒があるに」
と、母親が心配の声をあげました。
長太は首としっぼをきつくにぎられ、とても逃げられませんでした。
「大丈夫、青大将の子供や、毒はあらへん」
と、父親が落ち着いたようすで、まむしは首が細くて、体の模様が銭形(ぜにがた)である。青大将はおとなしい蛇なので恐くないと説明しました。
少年はきれいな目で、顔で、長太の頭の先から尾の先まで、よくよく観察したのでした。
母親が静かに語りました。
「生き物はどんな生き物でも、何かしらのお役目があって生きとるんやろで、悪いことしないものを、むやみにいじめやんようにしなぁい。声も言葉もださんでも、痛いのも嬉しいのも、皆、同じなんやでな」
と、そして言うのでした。
「まむしは飛びついてくるで、逃げやなあかん。まむしにかまれたら死ぬことがあるで、毒がまわらんよう、すぐに手でも足でもヒモでしばらなあかん」
少年は恐いんやなと、こっくりしました。
父親が穏やかに語りました。
「父さん子供のときな、蛇を皆は嫌うけどな、青大将とも遊んでやったし、いろいろな虫と遊んだ。どんな生き物でもよう見てみな。みんなおもしろい顔しとるに」
「口、チャックのサイフみたいや」
少年は幸福そうに、にっこりと笑い、長太をそっと草の上に返してくれたのでした。
長太は、間近(まじか)で少年のきれいな笑顔を見たとき、自分が少年と同じ人間になったような気がして、あんな嬉しかったことはなかった、と、思い出すたびに幸福になるのでした。

 しばらくして、長太はいつものように散歩に出かけたのでした。
スルル、スルスル、スルスルル。
西側の林の淵(ふち)を小道に沿って、ひんやり冷たい草の間を通りぬけて行きます。
スララ、スラスラ、スラスララ。
機嫌よく気持ちよく進んでいましたが、ちょっと一休みと、首を上げて遠くを見ました。
青い空の下のメロン畑の向こうには、稲田の緑がのどかに広がって、こちらから続く稲田の中の小道に、少年三人の姿がありました。
長太は、もしや、いつかの少年かもしれないと待つことにしました。
あの日を思うと、懐かしくて胸が躍(おど)ります。
伸びた夏草の繁みから顔を上げて、あの少年はどの子かと、明るく目を開いて、近づいて来るにぎやかな三人を見ていました。
 違う、違う、もっと小さてかわいかった。
やがて間近に来て、あの少年がいないと知ると、がっかりしたのでした。
けれど、あの純真なきれいな少年の面影を重ね求めて、通る子供達を見守っていました。
一人が長太に気がついて、指をさしました。
「あっ、蛇や!」
連れの二人がギョッ、として、すぐに恐い顔になって長太をにらみつけ、おどすように、ドン!と足踏みをしました。
「あっちへ行け!」
長太は何が起きたのか、とまどっているうちに石ころが二、三個飛んできて、飛ぶようにあわてて奥深い林の繁みへ逃げました。
ドキドキと音をたてて心臓がひっくり返りそぅになり、自分を蛇やと言った今しがたの少年達の態度は、どうにも悪者みたいに嫌っていたのやと、あたりが真っ暗になったように、悲しさいっばいで、何も見えなくなりました。
 なんにも悪いことしとらんのに何でや。悪い事したんは少年達やんか。・・・・・
長太は自分のどこが悪くてこんな目にあったのか、いくら考えてもわからなくて、わけもなく自分の全存在を否定されたことだけが、重く胸に迫るのでした。
もう、どこを散歩する気もなくなって、木と木の間の草の中に沈んでしまいました。
もんもんと思いを巡らしているうちに、闇の心に浮かんで見えてきたのはカブトでした。
 おいらに優しいカブトがおる。
長太はスルスルと前へ進みだしました。

 明けた空に清々しい日の光がさしました。
長太には、長い長い夜でした。
カブトは今日も清くかわいい青い花に会いたくて、西側の淵へ飛びました。
つゆ草の花は、清々しい活力を与えてくれる友となり、大切な宝になっていました。
空はカラリと晴れて、今日も良い天気です。
ブルルルルン、ブルルルルン、カブトがいつものように、丸太の杭の頭に止まりました。
待ちかねたカブトに、「こんにちは」と、つゆ草の花群れの前で、少しやつれて見える長太がしおらしく言ったのです。
カブトは感激して、いつもよりずい分と元気の良いはずんだ声になりました。
「こんにちは」
 いつも知らんふりやった長太さん、今日は自分から穏やかな声、姿。
カブトは喜びにあふれて言いました。
「今日もええ天気やなぁ」
「花、ようけ咲いとる」
長太は優しい声で言って、やっと安心したように、スルスルと朽木の陰に寄りました。
互いの心の天地に七色の光が昇り輝いて、澄んだ爽快な青空が広がったようでした。
 何と気持ちのええ朝やろ。生きとるて、楽しい。
カブトは心から自由とくつろぎを感じて花に見入り、幸福に満ちて安らぎました。
長太は、いつも変わらず自分を受けとめてくれる優しいカブトのそばで安らぎ、傷ついた心もすっかり元気になったのでした。

     
      つづく       


  

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