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zoom RSS 長編童話  楽園の王者

<<   作成日時 : 2010/07/01 01:41   >>

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   5  カブノスケの花嫁

 カブノスケは、さつま芋畑を出た夜、竹やぶのある林に来たのでした
林に着いて、最初に羽を休めたコナラの幹(みき)で、樹液(食べ物)を巡る、カブト虫とカブト虫の激しい戦いの姿を見てしまったのでした。
負けたカブト虫は頭と胸を引き裂かれ、木から落ち、息絶えたのでした。
青くなったカブノスケは、一生戦いなんぞ恐ろしくて出来ない、と強く思ったのでした。
勝ちたくもないし負けたくもない、結局、生きるためには、罪を作らないためにも逃げることにしました。
弱虫と言われてもかまへん。これが自分の生き方や、と心に決めました。
この夜、カブノスケは、この林の後ろにある林に飛んで、一本の柏の幹で、ひょっこり、カブロクに出会いました。
「林って恐い所や、気をつけろや」
カブロクに戦いの光景を語りました。
カブロクは、いとも静かな声で言いました。
「ほんな痛い目して、命かけて、なんで奪い合いのケンカせんならんのかわからん。
ぼくは、ほんな恥ずかしいこと、ようせん。相談して分けあったらすむことと違うん?」
と目をしばたき、遠くを見る目をしました。
「あのな、ほれよりか、ぼく、田んぼの中に点々と見える光があるやろ。あの光の正体を見たいのや。これから行こと思う。ノスケちゃん、一緒に行かへんかの?」
カブノスケはとまどいました。
「うん、・・・ぼく、あんまり気すすまへん。ぼくは早よう、ええ嫁さん見つけたいでの。行くんなら、ほこまで送って行くでな」
二匹は樹液を飲んで腹ごしらえをすると、林を飛びぬけて広い田んぼの上を飛び、雑草が繁るあぜ道に立つはんの木に羽を休めました。
 田中を通る小川のせせらぎが、かすかに聞こえ、はんの木には一匹の初々しい美しい娘のカブト虫が休んでいました。
カブノスケは一目で気に入り、いかにも嬉しそうなテレた顔をして、カブロクに言いました。
「ぼく、あの虫を嫁さんにしたい」
「じゃあ、勇気を出しての。大切にしろや」
と、カブロクはにっこりうなずくと、遠い青田の中の村里の明かりを見つめ、もう一度、笑顔でカブノスケを見ました。
「ほんなら、行くで」
「ん、気をつけろな。すぐに帰ってこいや」
飛び立つカブロクを見送り、夜空に姿が見えなくなると、カブノスケは腹を決めて歩みより、ドキドキしながら美しい娘に言いました。
「あの、ぼくと、おも、思い出を、ようけ作りませんか?」
娘の虫は、どこかほほ笑ましい姿や声、静かに輝く目を見て考え、判断しました。
「はい、一匹で心細く思っていました。喜んで」
 大空にきらきら光る星を見ながら、二匹はしばらく語りあいました。
「ぼくは、ほういぅ戦いはしたくないで、一本の木も自分の物にできやんと思います」
「ええのです。戦って身体がボロボロになるの、辛くて見てられません。血にまみれた木なんて欲しくない。樹液は飲めるだけあったらええんやもの。少ない木を、皆が独占しょうとしたら戦いがひんばんになるし、たくさん困る虫がでるわ。いつでも、はらはらして暮らしとぅないのです」
カブノスケは良い娘に巡り会えたことを喜び、一生大切にしょうと決めました。
「私、天地を見とると、どぅしてこんなに美しいんやろて幸せいっばいになるのやわ。
生きてることが素晴らしく楽しく感じられてきて、ここは生命輝く天の国やて思うことがあります。ほんとうに、いつでも、ほんなふぅに感じて暮らしたい。愛と喜びと平和が欲しいの」
この夜から、二匹はいつでも、どこへでも一緒に飛び、どうせなら、地平彼方まで、広い世界を見てみたいと、近場の林から遠方の林まで一周旅行をすることにしたのです。


 つゆ草の林に着いた夜、カブノスケは幸せいっばいの気持ちを込めて、カブエに贈り物をしたいと考えました。
「あの空の宝石星、カブエによぅ似合うと思う。首飾りにしてあげたいんや」
もしかして、高く昇ったら取れるかもしれないと思ったのです。
そこで、林の中の一番太い、高くそびえるクヌギの木のてっべんから空へ飛び上がることにしました。
青葉におおわれた、てっべんの枝に止まって、カブエは空高く飛び上がるカブノスケを見上げて、姿を見守っていました。
天空へ高く高く力の限り飛んだカブノスケは、上へ昇り、飛ぶほどに星は遠くにあることを知り、力尽きて舞い戻ってきました。
高く上がりすぎて、下へ降りるとき、目がまわったのでした。
必死で元の木のてっべんの枝に止まったときには、全身で苦しい息をして、身体がガクガクして、しばらく動けないのでした。
カブノスケは、そんな自分が情けなく、恰好が悪くて恥かしいと思いました。
「あかん、近くやと思たのに、どんどん遠くなるで、星、取ってあげられやん。ごめん」
「いいえ、ありがとう」
カブエは愛情に満ちた、優しい笑顔です。
カブノスケは、このときの、胸にしみる優しい笑顔を一生忘れないと思いました。
「あの星、カブノスケさんと私の幸せ星やわ。星は天に預けとこぅな。ほのほうが安心や。見たいときはいつでも二匹で見られるものな」
一匹でいたときより、二匹は何倍も嬉しく幸福でした。
てっべんの枝から、のどをうるおしに太い幹に下りてくると、三匹のカブト虫と一匹のクワガタ虫が、裂け目の液を飲んでいました。
カブノスケは、その中の一匹を、じっときらきらした目で見つめると、懐かしくて嬉しくて駆け寄りました。
「ャーァ、ブトちゃん」
「アー、ノスケちゃん」
カブトもきらきらした笑顔で歩み寄りました。
カブノスケはカブロクの行き先と、カブエと自分が夫婦で一周旅行をしていると話しました。
「ほいでの、あの星はぼくらの愛の星や。ほれにしても空は、どこまで深いんかの」
睦まじく素敵な夫妻の愛情物語を、カブトは微笑ましく楽しく聞きました。
「旅がすんだら、お土産話を持って帰ってくるでの。今度会うときは、ブトちゃんも可愛い嫁さんと一緒であることを願っとるナ」
二匹は楽しそうに幸福そうに、にこにこと見つめ合って元気に飛び立って行きました。
こうしたこともあり、つゆ草の林のこのクヌギの幹は、遠くへ出かけて行くことがあっても、必ず帰ってくる、カブトの止まり木となりました。

        つづく      



 

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