春夏秋冬

アクセスカウンタ

zoom RSS 長編童話  楽園の王者

<<   作成日時 : 2010/06/27 01:50   >>

トラックバック 0 / コメント 0

  4  カブトと優美なひら子

 カブトは、どこかおかしな世界にいる自分を思い、何もできない自分に気がついて、しんみりとして踏ん張りを続けていました。
 すると、どこからか、ひらひらキチョウが飛んできて、カブトに近い夏草に止まりました。
「こんにちは」
優しく明るい声です。
 なんときれいな声ゃ。
カブトは踏ん張りを休んで、キチョウを見ました。
澄んだ黒い目がきらきら、それは愛らしい笑顔です。
カブトもにっこりとして言いました。
「こんにちは」
爽やかな響きが返ったので、キチョウは嬉しくなり、そろえて立てた羽を心持ちふんわり広げて会釈しました。
「ひら子といいますわ」
 なんと可愛いのや。天使のよぅや。
「カブトっていいます」
感動しながら、あわてて頭を下げました。
「カブトさんはお強いだけやなく、お優しいのやなぁ」
「あの、僕が?」
カブトは戦ったことがないのです。
「はい。甲虫の中で、カブト虫さんは一番大きくて一番お強いのやもの。皆さん一万種類のチャンピオンやて、憧れてみえますのやに」
 僕らが甲虫の王者!
バッと輝いたカブトの顔が、すぐに角の先まで赤くなりました。
「僕、身体と同じくらい、いえ、身体も心も、大きく強くなりたいです」
「まあ、素敵なことお考えやなぁ」
可愛い笑顔が、いっそう美しく輝きました。
カブトは、ふんわりひら子に包まれて、和んですっかり楽しくなりました。
「ひら子さんはどこに、いつも、どこにみえるんですか?」
「私、林のまわりの、花から花へ旅してるんやわ。花の香りと甘い蜜が好きやもの。それに花は美しくて、ふれてると心が安らいで、清々しくなるのやわ」
ひら子は、うっとりと幸福あふれる顔になりました。
カブトは、月明かりに咲いていた黄色い待宵草を目に浮かべました。
「お日に咲く花?」
「はい。この林の淵(ふち)にも咲いてますに。西側の淵に、たくさんに」
カブトは、地面にころがったときから心がちぢこんで、いつもカサカサの固い木肌ばかりを見つめていたと気がつきました。
ひら子が去った後も、踏ん張りを続けるカブトの胸に、ほのぼのとした思いが残りました。
ひら子さんの愛らしさは、もしかして毎日ふれている花と関係があるのかな。
日が暑くなっていましたが、花を見てみたくなりました。


 林を西側へ飛びぬけると、カブトの目にはまぶしい青空が広がって、向かいの高く伸びた緑の茎(くき)には、半分色づいたトマトの丸い大きな実がいくつもいくつも重たげになっているのでした。
林と畑の間を通る雑草のでこぼこ道は、四季の可憐な花咲く楽しい小道でした。
 カブトは、大木が並び立つ青葉の繁りで日陰になっている林の淵を見て飛びました。
見ていくと西側から南側へ曲がる角(かど)が草原になって、その淵一面に露草の花が咲いているのでした。
その向こうの草原の繁みのには、朽ちた木がドンと一本横たわっています。
カブトは露草の青い花に囲まれた白茶けた丸太の杭(くい)の頭に止まって見ました。
 数えきれないほど咲いている青い花、ああ、なんと可愛いのや。優しいのや。僕らが見とる固い木肌とは別世界や。
やわらかくてみずみずしい花びら、清々しい青と白の花びらの中で、花芯が金色に輝いて見えるのでした。
 どうして、こんなにも美しい花が咲くんや。
見入るカブトの胸に、自然の不思議な力の働きと驚きと感動が静かに広がって、貴重な宝を愛しんでいる幸福と安らぎにひたったのでした。
清々しく心が洗われて、花の優しい愛に包まれていました。
ガサガサ、と草原の繁みがゆれて、横たわる朽木の向こうの草の中から大きな蛇が現れ、首を上げてカブトを見ました。
目が合うと、カブトはひら子に会ったときのよぅに爽やかに言いました。
「こんにちは」
蛇は丸い目をして黙って見ています。
「僕、カブトっていいます」
「おいらは長太(ちょうた)」
「ここは美しい花が咲いて、ええ所やなぁ」
長太は花にもカブトにも関心が無く、スルスルと、いつもの居心地の良い朽木のそばへ寄り、のんびりとくつろぎました。
昨日の昼間、太った野ネズミを食べましたので、当分は食べなくても満足なのでした。
強い日差しがあたりを焼き照らし、草の匂いと熱気がむんむんしてきて、カブトは林の中へ帰らなくてはと思いました。
「長太さん、ご機嫌よう」
長太は、ぼんやりと田畑の緑を見ていました。  

      つづく     


月別リンク

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文
長編童話  楽園の王者 春夏秋冬/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる